「濁らずにエネルギッシュに生きる」湯浅政明監督&アヴちゃんが告白、『犬王』が教えてくれたこと
「初心に戻れた気がしています」(湯浅監督)「これで犬王を終わりにはしたくない」(アヴちゃん)
――湯浅監督の作品には、いつも限りないアイデアと想像力の豊かさに驚かされます。限界を飛び越えていくという意味では、湯浅監督と犬王にも共通する点を感じます。
湯浅「でも僕、精神的に腐りそうになる時もありましたね(苦笑)」
アヴちゃん「監督が落ち込んでいる様子、見ていました!心配しました!」
湯浅「心配してくれるんだ(笑)。そんな時に犬王の存在に触れると、なんだかすごくいいなあって思ったんです。憧れというか、犬王みたいな人になりたい、犬王みたいな人でありたいと思ったりする。負の感情ってあとで考えてみると無駄なことが多いし、犬王のようにまっすぐに突っ走ったほうがいいんだなと」
アヴちゃん「ネガティブを取り込んで、食い破った先に見つけたポジティブさほど、力強いものはないと思います。私は、湯浅監督の作品が大好き。たくさんの人を巻き込んで一つの作品を創り上げることって、本当に大変なことだと思うんです。でもいまや本作を観た人から熱い感想をもらうことも多くて、やっぱり湯浅監督、すごいな!って思います」
――アニメーションと音楽、ダンスの融合というのは、湯浅監督作品の大きな魅力です。本作は室町時代を舞台にしたミュージカル・アニメとして、とてもエネルギッシュな作品として完成しましたが、監督にとってどのような新たなチャレンジがありましたか。
湯浅「音楽の作り方は、とても特殊なものになりました。本当は音楽を先に作って、それに合わせてストーリーや映像を作るのがベストだと思ったんですが、こちらのイメージをなかなか具体的な言葉で伝えられなくて。音楽の大友良英さんも『画がないとよくわからない』、こちらも『音楽がないと画が描けない』みたいな状態になってしまって(苦笑)。曲がないのにどう作ればいいんだ?と思いましたが、ここを突破しないと先に進まないなと思ったので、曲をイメージしながら『こんな感じで歌っている、こんな感じで弾いている』というムービーを作って、そこから大友さんに作曲をしていただきました。アヴちゃんと森山さんに歌っていただいたことで、またそれに合わせて画を変更していったりと、やりとりはとても複雑にはなったんですが、それがとてもいい感じになって。試行錯誤を重ねていくことで、足し算のようにどんどん盛り上がりながら、画も曲も出来上がっていったように思います」
――犬王は前代未聞のステージで人々を魅了していきます。アヴちゃんは、表現者として犬王のから力をもらったことはありますか?
アヴちゃん「めちゃくちゃあります。未來氏と一緒に、すばらしいキャラクターに強烈な生命力をもたらすことができたと思うととてもうれしいですし、のびのびとやらせていただけたこともものすごくうれしく思っています。私にとって犬王との出会いは運命ともいうべき衝撃的なもので、自分もこうありたいなと感じました。犬王に憧れを持ってしまった身として、『じゃあ、私はこれからどうするの?』と考えると、やっぱりそこを食い破るしかないなって。まだ私は捨てるもの、捨てられないものを選んでいる状態だと思うので、これで私の犬王を終わりにはしたくない。この先、犬王に対して、なんらかのアンサーをまだまだ出していきたいなと思っています」
湯浅「僕は、気分的には初心に戻れた気がしています。もちろんいままで培ったものを手放すことはありませんが、今回アヴちゃんや本作に携わっていただいた方々にいろいろな想いや力をいただき、学ぶことも多かった。いろいろな人の力を感じながら作品をつくることって、とても大事なことだなと改めて思っています」
取材・文/成田おり枝