『FLEE フリー』の監督が語る、この映画の”必然性”。親友の過酷な難民体験をアニメーションでつづる意義
本年度の第94回アカデミー賞で異例の3部門ノミネートを果たした作品があった。なぜ「異例」なのかというと、国際長編映画賞、長編ドキュメンタリー賞、長編アニメーション賞の3部門だったからだ。つまりドキュメンタリーで、アニメーションということ。過去にも同種の作品はあったが、アカデミー賞で同時ノミネートは史上初であり、世界中の観客を感動で包んでいるのが、この『FLEE フリー』だ。
主人公はアフガニスタンで生まれたアミン。父親が当局に連行されたことから、彼の家族は国を脱出し、モスクワでの一時的な生活を経て、アミンは単独でデンマークへ亡命する。その過酷を極めた半生を、デンマークでアミンと親友になったヨナス・ポヘール・ラスムセン監督が一本の映画にまとめた。
「彼の悲痛な思いを、映画を観る人に感じ取ってもらいたかった」
アミンについての映画を作ることは、ラスムセン監督にとって「必然」だった。いくつかのモチベーションが積み重なっていき、親友の存在と結びついたのだと、彼は語り始めた。
「2015年に、デンマークには多くの難民がたどり着いていました。私自身も高速道路の上を歩くシリア難民の光景を目にして、自分なりに彼らに物語を与えたいと考えたのです。私も数世代前の祖先がロシアからのユダヤ系移民ですし、祖母の家族は第二次世界大戦の影響で難民のようにあちこちを移動していました。今こそ難民の映画を作ろうと決意したとき、思い浮かんだのが、15歳で知り合ったアミンだったわけです」
デンマークの小さな町で育ったラスムセン監督は、高校への通学のバスなどでアミンと親しくなり、大人になっても年に1回は会い、一緒に旅行もするような仲だったという。そこで今回の映画に協力を求めたわけだが、ラスムセン監督にとっても大きな覚悟が必要になった。
「アミンがアフガニスタン難民で、ロシアを経由してデンマークに来た事実は以前から理解していました。しかし高校時代、彼はそれ以上の過去を話したくなかったのだと思います。ですから今回、映画を作るうえで彼と重ねたインタビューによって、その衝撃的な運命を私も初めて知ったのです。そしてアミンから『絶対に顔は出さない』という条件があったので、すんなりとアニメーションで描くことが決まりました。アミンというのも映画のための仮名です」
アフガニスタン難民としてアミンの家族はヨーロッパ各地で生活しているという。映画によって彼とその家族に何らかの危険がおよぶことも考えられた。しかし、アニメーションで描くと決めたことで、むしろ映画が作りやすくなったとラスムセン監督は打ち明ける。
「アミンが育った1990年代のアフガニスタンを実写で再現することは難しかったと思います。何より、アミンの感情の深い部分は、むしろアニメーションの方が表現豊かになると信じました。現在のアミンが監督の私と対話するシーンでは、声は“本物”です。アミンが初めて過去を語ったときの音声を使いました。その悲痛な思いを映画を観る人に感じ取ってもらいたかったのです」