運命的な出会いに同じ本棚…“北欧版『花束みたいな恋をした』”と話題のノルウェー映画とは
第74回カンヌ国際映画祭で大絶賛を集め、見事に女優賞を受賞。第94回アカデミー賞では脚本賞と国際長編映画賞にノミネートされ、世界中で100を超える映画賞にノミネートされたノルウェー映画『わたしは最悪。』(7月1日公開)。一人の女性のリアルな恋愛模様と成長が描かれる本作は、一足先に鑑賞した観客から“北欧版『花束みたいな恋をした』”との声が多数寄せられている。テーマや作品の雰囲気のみならず様々なリンクが見られる両作を比較していこう。
『わたしは最悪。』の主人公ユリヤ(レナーテ・レインスヴェ)は、アートの才能や文才もあるのに決定的な道が見つからず、自分の人生なのにいまだ脇役のような気分を味わっていた。そんな彼女にグラフィックノベル作家の恋人アクセル(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)は、妻や母といったポジションをすすめてくる。ある夜、招待されていないパーティに紛れ込んだユリヤは、若くて魅力的な青年アイヴァン(ヘルベルト・ノルドルム)と出会い、恋に落ちる。そして新たな恋の勢いに乗り、今度こそ自分の人生の主役の座を掴もうとする。
菅田将暉と有村架純がダブル主演を務め、2021年に興行収入35億円を記録する大ヒットとなった『花束みたいな恋をした』は、終電を逃したことをきっかけに出会った大学生の山音麦(菅田)と八谷絹(有村)の5年間が描かれたラブストーリーだ。駅の改札口で偶然の出会いを果たした麦と絹は、始発までの時間を共に過ごすなかで好きな音楽や映画などの共通点を知り、恋に落ちていく。それは本作のなかで描かれるユリヤとアイヴァンの出会いと自然に一致する。彼氏のパーティで居心地が悪くなったユリヤは、偶然アイヴァンと出会い、お互いをよく知らぬまま朝方まで話し込んでしまうのだ。
また麦の部屋を絹が最初に訪れるシーンで、本棚を眺めながら「ほぼ、うちの本棚じゃん」と呟くシーンがSNSなどで話題になったが、本作でも新しい彼氏と同棲を始めたユリヤが、引越しの荷解き中に自分の本を棚に並べようとすると、同じ本がすでに並べられているのを見つけるシーンが登場する。さらに将来はイラストレーターになることを目指す麦に対し、ユリヤの彼氏のアクセルは成功したグラフィックノベル作家。クリエイターであるという共通点に加え、優しいけれど自分の意見が正しいと思っているという厄介さもリンクしている。
そして安定した歯科医院の事務職を辞めて「私はやりたくないことしたくない。ちゃんと楽しく生きたいよ」と意思表示をし、イベント関係の仕事へ転職した絹。ユリアも医師の道へ進むことを辞め、本屋やカメラマンなど転職を重ねていく。そうした自分の心のままに生きる姿は、絹とユリアの通じる部分といえよう。
公開時には「リアルで刺さる」という声や「黒歴史が掘り起こされてつらい」といった共感を超えた様々な感情を観客に抱かせた『花束みたいな恋をした』。本作も主人公の20代後半から30代前半までの日常を描いた物語でありながら、批評家らから「痛烈」や「センセーショナル」「スリリング」といった声が飛びだすなど、“刺さる”描写が続々。主人公の生き様を、是非とも劇場で目撃してほしい。
文/久保田 和馬