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スコット・デリクソン監督が明かす、“恐怖”の原初的体験「観ることも作ることも、克服することだった」

インタビュー

スコット・デリクソン監督が明かす、“恐怖”の原初的体験「観ることも作ることも、克服することだった」


デリクソン監督が常に意識していることは「あるジャンルの映画から、そのジャンルの要素をすべて取り除いたとして、なおすばらしいドラマになり得るのか」ということだ。「アクションやおぞましいシーン、ゾクゾクするスリルを取り除いてもすばらしい映画であり続け、そこでようやく観客の記憶に残り、彼らとつながる可能性に行き着く」。それがデリクソン監督流のジャンル映画哲学だ。

子どもを狙う連続殺人犯グラバーを演じるのはイーサン・ホーク
子どもを狙う連続殺人犯グラバーを演じるのはイーサン・ホーク[c] 2021 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

原作小説は、ヒルが子ども時代に育った古い家の記憶が投影されているという。1972年生まれのヒルは物語の舞台である1970年代後半にはまだ幼かったが、1966年生まれのデリクソン監督はちょうど多感なティーンエイジャーに差し掛かった時期。「私自身が当時をどのように感じていたのかを映画を通して知ってほしい」と語るデリクソン監督は、当時の様相を再現する技術的な正確性のみならず、その時代を生きた人々の感覚、そこにある感情的な真実を求めて制作に臨んだことを明かす。

「高校に入るまでのもっとも古い記憶は、家の近所で起こった暴力だった。子ども心に最初に浮かんだ感情は“恐怖”だったのです」。その頃のアメリカ社会を震撼させていたのは、頻発する連続殺人事件に他ならない。マンソン・ファミリーやヒルサイドの絞殺魔。ゾディアック事件にデヴィッド・バーコウィッツ、ジョン・ウェイン・ゲイシー、テッド・バンディ。「1970年代半ばには、私の住んでいたデンバー北部に新たな連続殺人犯が現れた。誰もがその話題を口にしていて、あの恐怖は、臨場感をもってすべての人の心に深く根を下ろしていました」。

1970年代のアメリカを震撼させた連続殺人犯からインスパイア
1970年代のアメリカを震撼させた連続殺人犯からインスパイア[c] 2021 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

そうした“恐怖”への鮮烈な記憶は、デリクソン監督の映画監督としての作風へと密接にかかわることになる。「子どもの頃に大きな恐怖を感じながら育ち、それに伴う感情を理解していた。私のホラーへの愛はそこから始まったと言ってもいいでしょう。見ることも作ることも、私にとっては常に恐怖の対象を克服することだったのです。言葉を持たないものや世間や自然界に存在する言葉にできないほど怖いものの目を、あえて覗き込む。そこに私はいつもカタルシスを感じるのです」。

自身の“記憶”を原初として、そこから観客の“記憶”へと働きかける。従来のホラー映画の方法論を超越し、より感情的で身近な恐怖を生成しようとするデリクソン監督。その手腕が遺憾なく発揮された『ブラック・フォン』は、21世紀のホラー映画を代表する作品へと昇華することだろう。是非ともその全容を、劇場のスクリーンで堪能してほしい。

文/久保田 和馬

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