『ONE PIECE FILM RED』アフレコ現場に潜入!谷口悟朗監督が語る”ガヤ”の重要性と新しい表現への挑戦
「『ONE PIECE』の”お約束”を見直すために、いまに至るまでの過程を理解していった」
「ONE PIECE 倒せ!海賊ギャンザック」で監督デビューを果たした谷口監督。再び「ONE PIECE」を監督することに対しては、「テレビアニメの『ONE PIECE』だけでも、1000話を超えるほど長い期間やっています。その間にスタッフが入れ替わったりして、いつの間にか、『ONE PIECE』はこうやって作るのだという、”お約束”のようなものが出来上がっていました。ところがその”お約束”を組織内にいる人は、自分たちがつないできたものですから崩すのが難しい。その”お約束”が『いまの時代の作り方とあっていないではないか』など、見直しをするために外部から私が呼ばれたのでしょう」と、シリーズの新しい可能性について想いを語る。
「見直す分野というのは多岐にわたります。もちろん声優さんや音響、キャラクターデザインなど、残すべきところもある。しかし、それ以外の分野に関しては、内容に合わせて変更する余地がある」と話す谷口監督は、本作のメガホンをとることが決まってすぐに、ルフィ役の田中真弓に挨拶をしたという。「レギュラーの役者さんのところにこちらから飛び込んでいかないと、”お約束”の見直しは難しいですからね。メインのキャラクターたちは、役者さんたちが時間をかけて培ってきたもの。すでにできあがっているものを利用させてもらって、そこをいかに発展させていくかが大事になってきます。だから、基礎がつくられた過程を理解し、受け入れたうえで、ほかのキャラクターたちのバランス調整を行いました」。
「群像劇を少年マンガでやっていることが最大の魅力」
本作で大きく見直しを行ったのが、”組織”に対する捉え方だと話す。「今回の海軍には事務的なところが必要でした。例えば伝達役を行っている海軍兵は、伝達としての業務の部分に集中してほしい。『うおおおお!』と突っ込んでいかないでほしい。だから本作では、海軍も”組織”であると考えました。黄猿もいくら自由に生きているように見えるとはいえ、天竜人とかの意思があって、それを受けた海軍の方針があったうえで存在しているので、そこは組織人としての枠でやりますという形です。これはテレビアニメの『ONE PIECE』を否定しているのではなく、本作のこれまでの表現では伝えづらい部分を、お客さんにわかりやすく伝えるため、ということです」と、いままでにはなかった「ONE PIECE」の表現への挑戦を話した。
最後に谷口監督にとっての「ONE PIECE」の魅力について尋ねると、バックグラウンドのあるキャラクター像だと話す。「ルフィや麦わらの一味を立たせるために、キャラクターたちが存在しているのではなくて、それぞれにしっかり過去があり、哲学や信念があります。だからこそ、推しのキャラクターもできるだろうし、物語に入っていきやすくなる。あと主人公以外のキャラクターにも、読んでいくための手がかりがあることがポイントだと思います。これは群像劇の基本中の基本で、横山光輝先生の『三国志』などがわかりやすいでしょうか。決められたチームのなかだけで動くものとは違う、そういった群像劇を少年マンガでやっていることが、魅力なんだと思います」。
公開日が目前に迫った本作。実際にウタのライブ会場に訪れたかのような臨場感あふれるシーンの数々は、画面に映っていない"ガヤ"にまでこだわりぬいているからこそ作り出しているのだろう。そして「監督は『ONE PIECE』を自由にするための装置」と語った谷口監督の、並々ならぬシリーズへの理解が、”お約束”を崩すことができたのだ。「ONE PIECE」という作品を信じ、新しい表現へ挑戦をした本作を、ぜひ劇場で目撃してほしい。
取材・文/編集部