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『メッセージ』から『ブレードランナー』へ。奇才ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の挑戦に迫る

インタビュー

『メッセージ』から『ブレードランナー』へ。奇才ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の挑戦に迫る

テッド・チャンの短編小説を奇才ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化し、第89回アカデミー賞で8部門にノミネートされたSFドラマ『メッセージ』(5月19日公開)。エイリアンとの遭遇というSF的テーマを描きながら、ヒロインの辿る旅を通して“生と死”という根源的問題が心に沁み渡る本作には、驚きがいっぱい。

宇宙船の造形、エイリアンの容姿、彼らとのコンタクト方法…。SF映画の金字塔『ブレードランナー』の続編『ブレードランナー 2049』(10月27日公開)も手がけるヴィルヌーヴ監督の手腕により、未知なる映画体験へと観客を誘ってくれる。来日したヴィルヌーヴ監督を直撃すると「『誰も見たことのないものを作りたい』という思いは、僕にとって大きなモチベーションになるんだよ」とにっこり。本作に込めた思いを聞いた。

ヒロインとなるのは、言語学者の女性・ルイーズ(エイミー・アダムス)。ある日地球に現れた宇宙船らしき乗り物の中にいる“それら”との接触を依頼されたルイーズが、彼らとコンタクトを図るなかで壮大な真相を知っていく物語だ。

“ばかうけ”に似ていると話題となった宇宙船だが、映画を観ればその存在感に圧倒されるはず。「宇宙船は地球上の物質ではないものから作られていると考えた。光沢のある宇宙船じゃないし、金属製でもプラスチック製でもない。見当もつかないんだ」とヴィルヌーヴ監督。

エイリアンたちについても「大切だったのは、すごく強い存在感と知性を感じさせること。同時に怖くて脅威を感じさせるもの」とたくさんの想像をめぐらせて作り上げた。「SF映画を作るのは、30年間にわたる夢だった」というだけあって、SF的モチーフへのこだわりが存分にこめられている。

ヴィルヌーヴ監督は「『誰も見たことがないものを作りたい』という思いは、僕にとって大きなモチベーションになるんだ」と力強くコメント。「その思いは、今後の作品に向けてもとても重要なもの。『ブレードランナー 2049』では、すでにリドリー(・スコット)が作り上げた世界観があったし、彼のアイディアを継承していかなければいけなかった。僕はそれでも、新しく感じてもらえるもの。新しい刺激となるようなものを目指したよ」とモットーとともに、次回作について教えてくれた。

SF的モチーフだけでなく、物語の結末もまた、見たことのない世界だ。未知なる存在を前にして人間はどのような行動をとるのかというドラマに加え、物語は、愛する娘を失ったヒロイン・ルイーズの心の奥底へと向き合っていく。死生観を考えさせられるような内容となったが、ヴィルヌーヴ監督はどのように人生を見つめているのだろうか?

「僕は死を受け入れることは、美しいことだと思っている。僕にとって、人生のなかで大きく感銘を受けた瞬間は4つ。3人の子どもたちが生まれたそれぞれの瞬間と、祖母が僕の腕のなかで息を引き取った瞬間。その亡くなり方はとても美しく、力強いものだった。奇妙な美しさと言えばいいかな。僕は流れに身を任せるべきだと思って、その瞬間を迎えた。北米では死を恐れる傾向があって、生がまるでいつまでも続くものであるかのように感じ、一方で死が醜いことであるかのように扱われる。でも僕はそうではないと思う。この映画は、死を祝福するような映画でもあるんだ」。

ヒロインの内面を繊細に演じきったエイミーについては「魂のすべてを感じさせてくれる女優。ルイーズは“緊張と脆さ”の両方を感じさせる女性だ。エイミーは言葉で説明せずに、それらを感じさせてくれた」と賛辞を惜しまない。

一度、ルイーズの心の旅をともにすれば、再び冒頭に立ち戻って映画を観てみたくなるはず。ヴィルヌーヴ監督は「それは映画監督のなしえるトリックだね」と楽しそうな笑顔を見せる。「とても長い時間をかけて編集をしたんだ。何度観ても構造に欠陥がなく、新しい発見がある映画になるよう努力した。観客のみなさんは、本作を“知的な挑戦”として受け取るかもしれないし、二度目に観た時にはきっと一度目よりもっとエモーショナルなものを受け取ると思う。これはとても美しいことだと思っている。エイミーにも何度観てもらってもいいような演技を心がけてもらったんだ。ルイーズの道のりにもっと寄り添うことができると思うよ」。【取材・文/成田おり枝】

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