ユニークなホラーを連発!笑いと恐怖を操る、鬼才ジョーダン・ピールの作品歴を振り返る
『ゲット・アウト』(17)、『アス』(19)といったユニークなホラーを生みだしているジョーダン・ピール監督。“ヒッチコックの再来”とも言われ大きな注目を集める彼の3年ぶりとなる待望の最新作『NOPE/ノープ』が公開中だ。自らプロダクションも立ち上げ、映画にテレビシリーズまで示唆に富んだ話題作を手掛けているピールのクリエイターとしての仕事ぶりを改めて振り返っていきたい。
制作会社を立ち上げ、コメディアンからクリエイターへと転身!
コメディアンとして2000年代からテレビを中心に活躍していたピールは、2012年にモンキーパウ・プロダクションを立ち上げると、コメディアンとしての出世作である「マッドTV!」で共にレギュラーとして活躍した盟友キーガン=マイケル・キーと、自分たちの名前を冠したコメディ番組「キー・アンド・ピール」をスタートさせ、クリエイターとしても本格的に歩みをスタートさせていく。
プロデューサー、脚本家、そして役者の3役を担当した、1匹の子猫を巡る映画『キアヌ』(16)やドラマ「The Last O.G.」といったコメディを手掛け、さすがの笑いのセンスを発揮すると同時に、ピール自身が「笑いと恐怖の源泉は同じ」と語るように、ホラー作品にも手を伸ばしていく。
子どもの頃からホラーが好きだったというピールは、満足できる作品が少なくなったという理由から『ゲット・アウト』を制作すると、初監督作ながらアカデミー賞4部門にノミネート、脚本賞を受賞といきなりの大成功。さらに監督2作目となる『アス』、製作と脚本を担当した1992年の同名映画の続編的な立ち位置の『キャンディマン』(21)などヒットを連発。
映画だけでなくテレビドラマでも、摩訶不思議ながら教訓に満ちたエピソードが並ぶアンソロジー形式のSFシリーズ「トワイライトゾーン」のリブート版や、H・P・ラヴクラフトの世界を具現化したファンタジックなホラー「ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路」といった作品も手掛けてきた。
身近かつ社会的な問題を恐怖として描く寓話的ホラー
ピールが携わってきたホラー作品に共通しているのは、意外性と寓話性が同居したオリジナリティにあふれる作品だということ。どこか不可思議な手触りのストーリーは、予想を裏切る急展開によって化けの皮が剥がされ、同時に社会に潜む問題が浮かび上がってくるという、教訓が盛り込まれた現代のおとぎ話といえる作品ばかりだ。
例えば、ドッペルゲンガーを着想元とした『アス』では、とある家族が自分たちと同じ顔をした一家に襲われるという、ミステリアスかつ神秘的ですらある物語が繰り広げられていく。しかし、浮世離れした物語とは裏腹に「僕が実際に恐れていることが反映されている」、「一番恐ろしい設定は現実」とピール自身がインタビューで何度も口にしているように、扱われる恐怖の対象はリアルなものばかり。『アス』では、誰もが持つ自分自身の闇、影の部分が恐怖として描かれ、さらにはそこから貧富の格差という社会に横たわる問題へと踏み込んでいった。
白人の恋人の実家に出向いた黒人男性の身に起きる恐怖を描く『ゲット・アウト』でも、白人ソサイエティで黒人が覚える不安感、黒人に向けられる偏見といった人種にまつわる問題が恐怖の題材として登場。実際、ピールは黒人の父と白人の母のもとに生まれ、離婚により白人の母の手で育てられたという生い立ちを持っており、リベラルを気取る白人の本性やホワイトナイズされた黒人の存在など、自らの立場ならではの冷静な視点から複雑な社会の現状を作品に落とし込んでみせた。
さらに「ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路」でも、1950年代のアメリカを舞台に、失踪した父を探す黒人青年が経験する、怪奇小説家ラヴクラフトの本から飛びだしたかのようなモンスターの襲撃という非現実的恐怖と道中で受ける人種差別という現実の恐怖を織り交ぜながら描いてみせた。