「老いるたびに価値を上げる“ヴィンテージデニム”のような人間に」草なぎ剛が語る、これからの理想の生き方
1986年の長崎を舞台に、夫婦喧嘩は多いものの愛情深い両親と暮らす小学5年生の久田と、家が貧しくクラスメイトから避けられている竹本が、ひょんなことから“イルカを見るため”に、自転車に二人乗りして旅をする、ひと夏の冒険を描いた映画『サバカン SABAKAN』(公開中)。初めて演技に挑戦した子役を主役に添えた本作で、ナレーションと大人になった久田を演じた草なぎ剛に、本作の見どころや、大人になったいまだからこそ気付いた「人生を2倍楽しむ心構え」、これからの理想の生き方について語ってもらった。
「僕の周りには、自然と好きな人が集まってきます」
日曜劇場「半沢直樹」(20)など、主にテレビドラマや舞台作品の脚本・演出を中心に手掛けてきた金沢知樹が、オリジナル脚本で映画初監督を務めた本作。草なぎ剛をはじめ、尾野真千子や竹原ピストルといった個性豊かな俳優陣とともに、監督の故郷である長崎でロケを行った。当初はラジオドラマとして企画され、監督の幼少期の実体験なども盛り込んで書かれた台本をもとに、草なぎがすべての登場人物のセリフを、時に感極まり、涙さえ浮かべながら、震える声で演じ分けた。草彅いわく「渾身の一作に仕上がっていた」そうなのだが、まさかの数日後、「『あれ、ボツになっちゃいました』って言われて、ズコーッて(笑)。だから、今回はちゃんと映画化されて本当によかったなって思っているんです」と笑顔を覗かせる。
「子どもが主役」と銘打たれた本作で主人公の久田と竹本を熱演し、堂々たるスクリーンデビューを果たしたのは、番家一路と原田琥之佑。ともに2010年生まれである2人が、かつて草なぎ自身も少年時代を過ごした、1980年代の空気をそのまま再現した世界に、見事に溶け込んでいる。
「あの2人は生まれた時からスマホがあった世代。本当は『キン消し』も、アイドル時代の斉藤由貴さんのことも全然知らないはずなのに、スクリーンであんなに自然に見えるなんて、本当にすごいことだと思うんですよ。でも時代は巡り巡るものだから、どこかきっと、世代を超えて感じ取れる部分があったのかもしれない。監督を務めた金沢さんも、50歳を目前にしてオリジナル作品で初メガホンを取るなんて、相当やりますよね(笑)」
様々な出来事が起こるなかで、少年たちがかけがえのない友情を育む過程を丁寧にすくい取った本作。草なぎ自身の周囲とのスタンスの取り方について尋ねてみると、「周りには自然と好きな人が集まってくるものだから、無理に合わせることはしないかな」という答えが返ってきた。
「僕は感覚だけで生きている、とても正直な人間だから(笑)、無意識のうちにそういう人たちを引き寄せているところがあるのかもしれない。逆に言えば『この人とは合わないな』と思ったら、相手に気付かれないうちに僕のほうからササッと消えていなくなる(笑)。すぐに染まっちゃうタイプの人間だからこそ、隣にいる人がめちゃくちゃ重要なんですよ。とはいえ、自分にとって居心地がいい場所にいすぎると、今度は刺激がなくなって、脳も退化しちゃうから。たまには自分のテリトリーを飛びだして、知らない人と積極的に交流するようにもしてるんです。やりすぎるとストレスになってしまうから、バランスが大切です」
映画『サバカン SABAKAN』には「人生において本当に大事なものが詰まってる」と、ひときわ声に力を込めていた草なぎ。「この映画は、子どものころにお父ちゃんやお母ちゃんに抱きしめられた記憶だったり、友達とただ自転車をこいでいるだけなのに、ものすごく楽しくて、清々しさを感じる瞬間だったりとかを思い出させてくれますよね。でもそれは子ども時代の特権なんかじゃなくて、あのころの自分が感じていた感覚は、大人になったいまでもちゃんと掴めるはずなんです。大人になると『ダルいなあ』とか『疲れたなあ』とかすぐに口にしてしまいがちだけど、カメラとか、ギターとか、夢中になれることはいくらでもある。子どものころは行けなかった場所にも、大人になれば行けたりしますから」