『川っぺりムコリッタ』荻上直子監督が観客からの質問に回答！松山ケンイチの役者魂＆ムロツヨシの魅力を語る

『かもめ食堂』(06)や『彼らが本気で編むときは、』(17)の荻上直子監督がメガホンをとり、松山ケンイチとムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆らが共演した『川っぺりムコリッタ』(公開中)。本作のQ&A付き舞台挨拶が9月23日、東京・立川のシネマシティにて開催。荻上監督が登壇し、観客からの質問に答えながら制作の裏話やこだわりなどを明かしていった。

無一文に近い状態で北陸の小さな町にやってきた山田(松山)は、小さな塩辛工場で働き口を見つけ、社長から紹介された「ハイツムコリッタ」という古い安アパートで暮らし始める。ある日隣の部屋の住人の島田(ムロ)が風呂を貸してほしいと上がり込んでくる。ひっそりと生きたいと思っていた山田は、それを機に、大家の南(満島ひかり)や墓石販売員の溝口(吉岡秀隆)といった様々な事情を抱えた住人たちと出会い、少しずつ心が解きほぐされていく。

「松山さんはいままで会ったことがないような役者さんで、頭で計算してお芝居をするというよりも、すごく大きなところで理解していくような方でした」と主演の松山の印象を語る荻上監督は、「後になって松山さんは『実は台詞をあんまり覚えてなかったんです』と言っていました。それはその場に溶け込んで台詞を台詞として言いたくないという意志があったようで、そのアプローチの仕方が特別で、すごくおもしろい役者さんだなと感じました」と賛辞を送る。

また満島については「動物的で人の心を読む。私の考えていることをズバッと言い当てるので怖い女だなと思っていました(笑)」と振り返り、ムロツヨシについては「すごくエンターテイナーな方で、共演者にもスタッフみんなにも気を遣って周りを盛り上げようとする人。いいから役に徹してくださいと厳しく言ったりもしましたが、すごく努力をして島田という役を演じてくれていました」とその人間的な魅力を讃えていた。

Q&Aが始まると、会場のいたる所から手が挙がる。最初の質問では、荻上監督作品の代名詞とも言える“おいしい食事”シーンへのこだわりについて訊かれ、「死をテーマにした作品ですので、その真逆である生を同時に描いていきたかった。とくに山田という主人公にとって、初めての給料で買ったお米はかけがえのないもの。すごく大事に撮りたいと思っていました」と告白。松山が数日間の絶食をして撮影に臨んでいたというエピソードを披露。

続いて「いつもどこから物語を着想しているのか」という質問に対し、「いつも映画を撮りたくて仕方がないので、常に考えています」と明かす荻上監督。「脚本を書き始めるきっかけとなるものがあって、本作の場合は夕焼けの空を見た時に、ふと知久寿焼さんが作詞した『夕暮れ時のさびしさに』のメロディが浮かび、歌詞を調べてみたら不思議な歌詞で。その要素を散りばめてみようと思った時に、脚本がぱっと書けたんです」と本作が生まれた経緯を語った。

他にも「いくつかの映画のオマージュを感じたのですが、意識されてましたか？」という質問に、満面の笑みで「意識していました」と回答。「親子は黒澤明監督の『どですかでん』に出てくるホームレスの親子をオマージュしています。吉岡さんもそれをすぐに気付いてくださりました。あと今村昌平監督の『うなぎ』が好きなので、その感じも頭にありました」と楽しそうに語っていく。

そして撮影時のことを訊かれ「富山という土地はゆったりしていて、気持ち的にもゆったりと映画を撮ることができました。俳優さんたちもきっと自然のなかに包まれていたことでしょう。富山という土地がこの映画を助けてくれました」と、撮影場所である富山県に思いを馳せた荻上監督。イベントの最後には映画館のスタッフから花束を進呈され顔をほころばせていた。

取材・文/久保田 和馬