ずん・飯尾和樹、笑いを封印。『沈黙のパレード』で見せた俳優の顔「正直、この話は自分には無理だなと思った」
「本当に大切なものが守れなかったりすることの悔しさを、この映画が描いていますよね」
――その後、長女、佐織の失踪と死を経験することになるのですが、その死に関わっているのではないかという男が見つかりますが、彼が黙秘して語らないことで罪に問えないという展開になっていきます。
「祐太郎を筆頭に、佐織を大切に想っていた人たち全員の気持ちはわかるし、容疑者に黙秘されると罪を立証できなくて、“疑わしきは罰せない”ということになるんだと、改めて思いしりました。警察ではかつて無理に自白をさせていたということがあっての反省と、人権を守るためにそうなったんだけど、法の隙間をねらって利用する奴がいるんだと。本当に大切なものが守れなかったりすることの悔しさを、この映画が描いていますよね。だから北村一輝さん演じる草薙さんに申し訳なくてね(笑)。本当に草薙さんに当たり散らす役柄でしたから。(北村さんは)会うたびにやつれていって、ひげもどんどん生えていって…見ているこっちもつらいですけど、草薙さんのつらさが手に取るようでしたよ」
――飯尾さんは福山雅治さんと同学年ですが、同級生として見た福山雅治、湯川先生はどういう存在でしたか?
「福山さんは柔軟な方ですよね。それと、現場で全然座らないんですよ。僕なんて、休憩時間は先ほど言った店の奥のスペースでくつろいでいるのに、福山さんはずっと立ったまま。それで椅子を薦めたら、『湯川は服にしわがなくぴっちりしているイメージで、座ってしまうとしわが出来ちゃうから大丈夫です』って。まあ、同じ学年ということで現場ではいろいろ妄想しましたよ。もし同じクラスだったら、同じグループになった自信はありますけどね(笑)。名前は下の名前で呼び捨てされて、俺は『まさやん』とか…。で、女子から呼び出されて、『ごめん、飯尾君って雅治と仲がいいでしょ。彼、どういう女の子がタイプかな?』と聞かれて恋の橋渡しをするんじゃないかな、なんて」
「完成した作品を観て、まだ観客としてこの映画に浸っているんですよ」
――すごく楽しそうです(笑)。同じクラスに私もなりたいです。これまでも映画には出演されていますが、『沈黙のパレード』では被害者の父親役として肝となるポジションで、この映画を支えられて、これを機にシリアスな役柄のオファーが殺到するんじゃないかと想像もするのですが、ご自身は俳優の仕事に対してはいま、どのような考えですか?
「これは人様が決めることなので、自分では全然、決めることではないと思いますね。完成した作品を観て、まだ観客としてこの映画に浸っているんですよ。ああ、あれがあったから、後半のあれになるのか、はあ、あの時、監督が言っていたのをわかったつもりで『はい』と言っていたけど、大スクリーンの何倍もの解析度で見ると、ああ、西谷監督にはこういうねらいがあったんだなと、いまになってわかりますね。また、この映画に出られた方たちの姿勢がすばらしくてね。例えば、酒向芳さんは現場で水を一切、口にされないんですよ。体調に良くないんじゃないかと思って水を持っていくと、『喉を湿らせると、さっきの場面と声質と変わってしまうので』と遠慮されて。そこまで考えて演技をされているんだなと驚きました」
――『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)や『ターミネーター2』(91)を“毎年観るほど好きな映画”ともおっしゃっています。今回の『沈黙のパレード』の出演発表の際のコメントでも、「最低3回観ていただけるとうれしいです」と答えられていたのが印象的でした。飯尾さんにとって、“同じ映画を繰り返し観る”楽しさって、どんなところにあるんでしょうか?
「映画の見方がそのたびに変わるから、また新しい発見ができるじゃないですか。『ゴッドファーザー』のような名作でもなんでも、最初は主人公目線で見るけど、次は脇のあいつの目線で観てみようとか。そうすると、観るたびに、前回とはまったく違ったものが見えてくるんですよね。だからおもしろくて、何度も見直してしまいます。『沈黙のパレード』も、登場人物が多く、まさにどの人物の目線でこの事件を見るかで、全然違った風景が見えてくると思います」
取材・文/金原由佳