「ダイアナ妃は高校のクールな先輩のよう」辛酸なめ子が『スペンサー ダイアナの決意』をレビュー!

コラム

「ダイアナ妃は高校のクールな先輩のよう」辛酸なめ子が『スペンサー ダイアナの決意』をレビュー!

衝撃的な自動車事故でダイアナ元皇太子妃が亡くなってからもう25年…。世界におけるダイアナ妃のカリスマ性や存在感はゆらぐことがありません。今もなお世界中で愛されていて、キャサリン妃やメーガンさんをはじめ、ヤングロイヤルたちにも大きな影響を与え続けています。教会のステンドグラスにダイアナ妃の幽霊が映り込んだニュースが出たり、イギリス人は今も心のどこかでダイアナ妃の姿を追い求めているようです。ダイアナ妃の悲劇の要因である、チャールズ新国王やカミラ妃の支持率も未だに低いまま。

クリステン・スチュワートがダイアナ妃を演じた『スペンサー ダイアナの決意』(10月14日公開)
クリステン・スチュワートがダイアナ妃を演じた『スペンサー ダイアナの決意』(10月14日公開)[c]Pablo Larrain

そして、ダイアナ妃をテーマにした映画やドラマも次々と制作されています。これまでの作品は、ダイアナ妃の顔にできる限り寄せようとしたり、伝記として描いたり、悲劇的な人生にフィーチャーしていましたが、今回の『スペンサー ダイアナの決意』は、今までにないダイアナ妃の映画だと感じました。絵画のような美しい映像で、彼女の心の核の部分も描かれています。ダイアナ妃の孤独が見る人の心に伝わってくるだけでなく、彼女の魅力や愛される理由も理解できる作品です。原題は「スペンサー」。もし日本のプリンセスで、と考えたら、旧姓がタイトルになっているのもセンセーショナルです。彼女のルーツを表す名字。もしかしたら婚家になじめなかったことを象徴しているのでしょうか…。

冒頭からアウトローな雰囲気のダイアナ妃

『スペンサー ダイアナの決意』を辛酸なめ子がレビュー!
『スペンサー ダイアナの決意』を辛酸なめ子がレビュー!イラスト/辛酸なめ子

舞台は1991年のクリスマス。今は亡きエリザベス女王の私邸、サンドリンガム宮殿でロイヤルファミリーの集まりが催されます。ダイアナも、ゴージャスだけれど格式張ったパーティーに呼ばれました。未だにおさまらないチャールズ皇太子とカミラ夫人の不倫の話題で、世間から同情と好奇のまなざしで見られていたダイアナですが、自然に囲まれた宮殿も心安らげる場ではありませんでした。ろうそくの光に彩られた華やかなクリスマスの影で、苦悩するダイアナ。そして彼女はある決心を胸に抱く…というストーリーです。

衣装やアクセサリーまですべてが決められた王室の世界に辟易しているダイアナ
衣装やアクセサリーまですべてが決められた王室の世界に辟易しているダイアナ[c]Claire Mathon

近年でも毎年クリスマスの時期になると、エリザベス女王のクリスマスパーティーは開催されるのか、誰が呼ばれるのかなど話題になったりしていました。豪奢だけれど寒々しいお城で、さぞ緊張感が漂う集いなのだろうと思って見ていましたが…この作品にはベールに包まれたクリスマスの饗宴が細部に至るまで描かれています。王室ゴシップ好きとしても見逃せません。唯一うらやましいポイントとしては、料理がとにかく豪勢でした。


気の進まないパーティーに参加するダイアナはストレスを隠しきれない
気の進まないパーティーに参加するダイアナはストレスを隠しきれない[c]EVERETT/AFLO

冒頭、ダイアナがポルシェを飛ばしてノーフォーク州にあるサンドリンガム宮殿に向かうシーンからはじまります。「道に迷ってるの、ここはどこかしら? 町の名前もわからなくて」と、通りがかったお店の人に聞いたりして、混乱している様子。行きたくない、という思いが根底にあるので、遅れてしまっているようです。王室メンバーを待たせるとは、庶民としては信じられないですが、クリステン・スチュワート演じるダイアナはどこかアンニュイな表情。「行くのダルいな…」という心の声が聞こえてきそうです。今までの悲劇的なダイアナの映画と違うのは、ダイアナの内に秘めた強さと反抗心がにじみ出ていることでしょうか。うるさい先生に叱られてウザかったとか、厳格な学校をサボりたいとか思ったことがある人は、クリステン版の不良っぽいダイアナに共感できそうです。こんなCOOLなダイアナを観たのははじめて、と冒頭から引き込まれます。「私はルールブックには従いません。私は頭脳ではなく心に従うから」という、後年のダイアナの名言もよぎります。

孤独感はありながらもどこかアンニュイでかっこいいダイアナを、クリステン・スチュワートが熱演
孤独感はありながらもどこかアンニュイでかっこいいダイアナを、クリステン・スチュワートが熱演[c]EVERETT/AFLO

とはいえ、王室にも長年の格式と伝統があり、何もかも逃れることは難しいようです。まず驚いたのが、宮殿でいきなり体重を測られる謎の風習。エドワード7世の時代にはじまったしきたりで、ディナーの前と後に体重を測ることで、出席者がきちんと食事しているかを確かめるそうです。1キロは太っていることを求められるとか。摂食障害に悩んでいたダイアナにとっては過酷な風習です。

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