女性監督の活躍が目立ったカンヌ2017終幕
第70回カンヌ国際映画祭が終わった。
天気には恵まれた今回だったが、昨年7月のニースの事件に続き、会期中にマンチェスターでのアリアナ・グランデのコンサート会場爆破事件があったりして、厳戒態勢の上にぴりぴりした雰囲気がどうしても漂う11日間だった。とうとう金属探知機ゲートが登場、荷物検査に加えての二重チェックに各会場の入り口は大混雑していた。
明るい話題としては、新会長の就任と共に参加した新スポンサーのケリング社が力を入れる女性映画人の顕彰が、三年たってしっかりした広がりを見せ、さまざまな機会に「女性映画人として…」というコメントが発せられていた印象がある。その結果として、56年ぶりに女性監督が監督賞を受賞するという快挙が行われたのである。
前評判では「三回目のパルムか!」と言われていたミハエル・ハネケの『ハッピーエンド』の評判が今ひとつで、ならば後半に向けて盛り上がるうちに他の注目作が出てくるのではと期待された割に、どんぐりの背比べ状態の各作品の評判が日報に載り、なんとなく、低調かなー、という空気が流れていた。
かといって、ひどい、わけではなく、中くらいのが並んでる…といった感じ。もうこれしかないでしょうという一強はなかった。逆に言えば、アベレージよりほんのちょっと上の作品が並ぶ、粒は(小粒だが形はいいのが)そろった年だったと言えよう。その中から審査員が選んだのは、下記の通りの作品たち。順当なれど、どんでん返しあり、という結果である。
●パルム・ド・オル/『The Square』ルーベン・オストルンド監督(スウェーデン)
●70周年記念賞/ニコール・キッドマン
●グランプリ/『BPM-Beats Per Minute』ロバン・カンピヨ監督(フランス)
●監督賞/ソフィア・コッポラ監督(アメリカ)『The Beguiled』
●男優賞/ホアキン・フェニックス(アメリカ)『You Were Never Really Here』
●女優賞/ダイアン・クルーガー(ドイツ)『In The Fade』
●審査員賞/『Loveless』アンドレイ・スヴァギンツェフ監督(ロシア)
●脚本賞/ヨルゴス・ランティモス監督&エフティミス・フィリップ(ギリシャ)『The Killing Of The Sacred Deer』/リン・ラムジー監督(イギリス)『You Were Never Really Here』
3種類の日報誌がそれぞれ評論家やジャーナリストによる星取り表を出しているのだが、平均して評判がよく、特にフランス系のジャーナリストには圧倒的に支持されていた『BPM』がグランプリにとどまり、三番手程度に位置づけられていた『The Square』がパルムというのが最大の番狂わせである。インターナショナルでは一番人気を得て、フランス系でも二番手に手堅くついていた『Loveless』の監督は、審査員賞に少々不満顔をみせていた。
今回、これは間違いないだろうと思われていたのは女優賞だけで、ダイアン・クルーガーの受賞には皆納得の拍手を送ったが、男優賞の方はホアキン・フェニックス自身全く期待していなかったため、名前が読み上げられてもしばらく訳がわからなかったほどである。当然スピーチも用意していなかったため、しどろもどろ。タキシードにスニーカーという格好を一番しまったと思っているのは本人だったようだ。
今回コンペティションには三人の女性監督がノミネートされていたが、その中からソフィア・コッポラが監督賞を受賞。1961年のユリア・ソーンツォク監督(ソビエト連邦)『戦場』以来の受賞である。もう一人の女性監督リン・ラムゼイ監督も脚本賞を受賞。対してグランプリを受賞したこともある河瀬直美監督はエキュメニック賞と公式部門の賞とは違う小さめの賞に落ち着いた。それでも今年4本が各賞候補になった日本映画監督の中(しかも4人中3人は女性)一人受賞監督になったわけで、今回は十分なのではないかと思う。
ともあれ、70周年ということでいつもよりも有名映画人のカンヌ入りが多かった今年、何事もなく、平穏に終わったことが何よりの収穫だったカンヌ映画祭。「また、来年」と言い交わしながらカンヌを離れる映画人やジャーナリストたちの胸の奥には安堵が広がっているに違いない。【取材・文/まつかわゆま(シネマアナリスト)】