井上真央、『わたしのお母さん』で難役に挑戦。杉田真一監督は“佇まいの説得力”に惚れ込み主演に抜てき
第35回東京国際映画祭のNippon Cinema Now部門で井上真央主演映画『わたしのお母さん』(11月11日公開)の上映が行われ、Q&Aセッションに井上と杉田真一監督が登壇した。
本作は、母との関係が苦しい娘と、悪気なく娘を追いこんでしまう母の姿を描いた人間ドラマ。長編デビュー作『人の望みの喜びよ』(15)で、ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門のスペシャルメンションを受賞した杉田監督がメガホンを取った。主人公の夕子役を井上、母である寛子役を石田えりが演じている。
杉田監督は、井上と石田を母娘役に起用したことについて「この2人がいなければ成立しない映画。実力派と言われていて、そこに対しては疑うことなく、リスペクトがあるお2人です」と絶大な信頼感を吐露。「これが決め手というのをあえて言うならば、石田えりさんに関しては年々増していくような現役感。井上さんに関しては、佇まいの説得力」と明かした。一方、脚本を読んだ井上は、「ただ親子関係に苦しむ人ではなくて、“こうでなければいけない”というものに合わせられない。そういった心の底に抱えているようなものを、ゆっくりと紐解いていくような静けさがあって、とてもいい脚本だなと思いました」と惚れ込んだという。
セリフが少なく、目の動きや佇まいでキャラクターを表現することにもなったが、井上は「難しかったですね」と苦笑い。「夕子として、そこにふっと立っている。役としてただ存在しているだけということが、こんなに難しいんだというのを感じました」と苦労もあったというが、「この映画を通して、改めて役との向き合い方をもう一度考えさせられた気がしています」と発見も多かった様子。
観客からも、「監督から、井上さんの佇まいの説得力というお話がありましたが、それをすごく感じた。監督からの無茶振りを感じたシーン、特に難しかったシーンは?」と佇まいに関する質問があがった。井上は「全部と言いたいところですが」と笑い、「撮影が始まる前に、監督が『歩くシーンを大事に撮りたい』とお話しされていた。特になにかをするわけでもなく、ただ歩いているシーンもいくつかある。『そこでなにかが見えたらいいなと思っている』と。“歩くだけで”というのは、すごく難しかった」と告白。
母と大げんかになる前のシーンについて振り返りながら、「あそこが一番どうしていいかわからなかったシーンでもある」と続け、「監督が、『コップ一杯、水がたっぷりと入っていて、それを持ち歩いている感じ』と言って。こぼれそうだけど、こぼれない。こぼれないように…としている感覚だと。最初は『なにを言っているんだ?』と思いましたが(笑)、それがすごく腑に落ちた」とディスカッションを繰り返しながら、シーンを積み重ねていったと話す。
映画のタイトルにちなみ、井上が自身の母との一番の思い出を語る場面もあった。井上は「旅行に頻繁に行くということではなかったんですが、神奈川に住んでいて、東京でお仕事や用事があると、よく母と電車に乗っていた。電車を乗り継いで、片道1時間半くらいかかるんです。その時に駅の構内の売店で、キャンディやキャラメルやグミとかを買ってくれて」と楽しそうに回想し、「そのお菓子を見ると、大人になってもその時のことを思いだしたりします」と目尻を下げていた。
取材・文/成田おり枝