松岡茉優、“女優”という言葉の持つ意味について持論。樹木希林、安藤サクラとの出会いを通して「女優さんになりたいと思った」

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松岡茉優、“女優”という言葉の持つ意味について持論。樹木希林、安藤サクラとの出会いを通して「女優さんになりたいと思った」

第35回東京国際映画祭の公式プログラム「ウーマン・イン・モーション」のトークイベントが10月31日にTOHOシネマズ日比谷で行われ、松岡茉優と是枝裕和監督が登壇。監督と女優という異なる立場から、日本映画界における女性の役割や課題、未来について語り合った。

「ウーマン・イン・モーション」は、グッチやサンローランなどのラグジュアリーブランドを擁するグループであるケリングが、2015年にカンヌ国際映画祭のオフィシャルパートナーとして、映画界の表舞台やその裏側で活躍する女性たちに光を当てることを目的として発足した活動。以降、映画だけでなく、写真、アート、デザイン、ダンス、音楽などにも取り組みの幅を広げ、トークイベントでは、著名人がそれぞれの職業における女性の立場について意見交換する機会を提供している。

東京国際映画祭の公式プログラム「ウーマン・イン・モーション」で熱心に語った松岡茉優
東京国際映画祭の公式プログラム「ウーマン・イン・モーション」で熱心に語った松岡茉優

是枝監督と松岡は、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した『万引き家族』(18)でタッグを組んだことのある2人だ。子役として芸能界入りし、すでに15年以上のキャリアを持つ松岡だが、この日は「女優」について持論を語る場面も。

松岡は「女優さんって、清楚で、清潔感があるとか、はたまた色っぽいとか、そういった憧れ的な言葉になる。私はそんなイメージがあって。だから自分で名乗る時は、『俳優』と言いたい。それは私には“女優さん”という言葉が当てはまらないと思っていたから」と切りだしながら、「だけれども、樹木希林さんと安藤サクラさんとお芝居をして、『私は女優さんになりたい』と思った。それはお二人が、女の人として生きてきた肉体がそこにあったから。私のなかでずっとあった、清楚でなければいけない、色っぽくなければいけない、麗しいもの、褒め言葉のようなもの、そういったイメージではなくなった。肉体としてそこにあるのが、女優さんだと思った」と樹木と安藤との出会いによって、“女優”という言葉の持つイメージが自身のなかで変化したという。

さらに「日本だと清楚じゃなかったり、色っぽくないと、『女優さんらしくないね』と言われる。私は散々言われてきた」と苦笑いを見せた松岡。「女優さんらしいってなんですか。海外では、女優さんっていうのはどういう扱いなんですか?」と質問すると、是枝監督は「難しいね」と思案顔。自身にとって初の国際共同製作(日仏合作)映画となった『真実』(19)では、カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュといったフランスの大女優と仕事をしてきたことを振り返りながら、「カトリーヌ・ドヌーヴは、女優さんとか俳優さんとかじゃなくて、カトリーヌ・ドヌーヴなんだよ」と語る。


「ウーマン・イン・モーション」に参加した是枝裕和監督
「ウーマン・イン・モーション」に参加した是枝裕和監督

松岡は「かっけえです」と惚れ惚れとするなか、是枝監督は「ジュリエット・ビノシュとか、お仕事はしたことがないけれど、イザベル・ユペールなど、そういう世代の役者さんたちが、ある種フランスの女優像みたいなものをポジティブに体現しているのかな。演じることだけではなく、一人の生活者として、社会問題や政治問題などいろいろな問題に対して積極的にステイトメントを出したり、デモをしたり。女優であることをうまく利用しながら、自分が社会的な存在であることを自覚して、意識して影響を与えていく。“社会と関係を持っていく”ということにとても自覚的」とフランスの女優についての印象を明かし、「『女優なんだからお芝居をしていればいいじゃん』という目線で捉えらえるところが、まだ日本にはあるでしょう。その辺が一番遅れているところなのかなと思っています」とコメント。「いろいろなことを言っていいと思う。はみ出してもいい」と続けた。

『万引き家族』で松岡を起用したことを述懐した是枝監督は、「松岡さんは、樹木希林さんと安藤サクラさんに連なる系譜だと思って、会わせたかった。20代であの二人と会わせておいたら、松岡さんの財産になって、演じるということに対してきっとなにか確変するだろうという気がしていた。そういう人として参加してもらっている」とにっこり。松岡は「私はどれだけのことを受け取れたんだろうかと、少し悩んだ」とその期待に応えられたのか不安にもなったそうだが、「入ったものは、時を超えて羽化する。いまさらわかったこともある。私がもっと大人になっていく過程で、また開いていくと思う。もらったDNAは大事に受け取っていきます」と宣言していた。

お互いへの信頼とリスペクトの伝わるトーク
お互いへの信頼とリスペクトの伝わるトーク

日本映画界の労働環境に危機感を抱いた是枝監督は、「映画監督有志の会」を立ち上げて改善を目指す活動を始めている。松岡は「たとえば、2週間や10日で映画を撮る場合もある。それを経験した身として、悪いことばかりでもなかったりする。みんなが寝られたほうがいいし、家族と過ごす時間があったほうがいい。絶対にそのほうがいいんだけれど、その期間に、超集中して全員で走り抜けたというのがあって。これはなくなっていくべきものですか?」とハードな撮影期間で一体感を味わったこともあるという。

松岡の率直な意見に笑顔を浮かべた是枝監督は、「寝食を共にして、寝る時間を削って、一体感で祭りを執り行った感じ。それで仕事を一緒にした以上のつながりを持つこともある。それは財産になっていく」と認めつつも、「そのもとでなにかが犠牲になっているということが、もう看過できない状況になっている。それは改善されていくべきものだと思う。たとえば韓国(の撮影)ではきちんと休みを取るけれど、それで一体感がなかったかといえばそんなことではない」と考えを打ち明けた。

笑顔で手を振った
笑顔で手を振った

「難しいね」と頭を悩ませながらも、「難しいけれど、それはたぶん変えないと。この業界にいる人たちが、自分のお子さんたちが『(映画業界に)入りたい』と言ったら、『辞めなよ』と言わないような環境にしないと。そういう責任がある年齢になった」と覚悟を話すと、松岡も「私にも背負わせてください」と同意。「若い世代がそういうことを言うと、生意気とか言われる。でももう私も27歳ですから、背負っていてもおかしくない世代。私たちの世代がそういう発言をしても、びっくりされない世界になってほしいと思う。まだ、(意見を)言わないほうがベターだと思われる」と意見を言いづらい環境もあると告白する。

この日に向けて、女性スタッフにも現在の状況について聞き取りをしてきたという松岡。「これは映画界に限った話ではないけれど」と前置きしつつ、「どうしても子どもを持つ、育てるということの舵取りを女性が担っている。(意見を聞いた)その子は『家庭を持ちたい、バリバリ仕事をしたい、その両方がかなわない。私は今後も現場のスタッフとしてやりたいけれど、今後家庭を持ちたい、結婚したいとなった時に、現場に居続けられるかわからないし、不安で悔しい』と言っていた。子どもを持った時に、育てながら働ける環境づくりをしていかないといけない」と業界に身を置く一員として、「一生懸命、考えます」と語る。

「違う意見の人もいると思う。でもやっぱり人間にできることは、話し合い。ケンカではなく、話し合いができる映画界であってほしい。お互いに耳を傾けられる世界でありたい。自分もそうでありたい」とお互いの意見を受け取って、話し合える世界を願う。議論を交わしながら真摯に自身の意見を述べる松岡に、是枝監督は感心しきりで「10年くらい前、最初にオーディションで会った時にトーク力が群を抜いていた。そこから注目した」と話していた。

取材・文/成田おり枝

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