伝説の登山家・山野井泰史に密着したドキュメンタリー映画が完成!野口啓代らも惚れ惚れ「全クライマーが目指すべき存在」
世界的アルパインクライマーの山野井泰史の足跡をたどるドキュメンタリー映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』(11月25日公開)の完成披露上映会が9日、東京・神楽座にて開催。上映後の舞台挨拶に、登山好きとして知られる俳優の市毛良枝と、東京2020オリンピック銅メダリストでプロフリークライマーの野口啓代、そして本作のメガホンをとった武石浩明監督が登壇した。
昨年、登山界最高の栄誉と言われる「ピオレドール生涯功労賞」をアジア人として初めて受賞し、クライミングの歴史にその名を刻んだ山野井。本作では世界の巨壁に“単独・無酸素・未踏ルート”で挑み続けた彼の足跡を、貴重な未公開ソロ登攀映像や、生涯のパートナーである妻の妙子への取材や、関係者の証言などと共に振り返っていく。ナレーションを務めるのは、これがドキュメンタリー映画初参加となる岡田准一。
山野井本人と親交のある市毛は、作品の感想を訊かれると真っ先に「よくあれだけ追いかけられましたね」と武石監督に労いの言葉をかける。そして「登山家は特別な方だと思われてしまいがちですが、普段の山野井さんはとてもチャーミングな人柄。普段から山のことばかりお話しされるのですが、ものすごい岩場を登った話をしているのに、砂場の話をしている子どもみたいに語る人。それがこの映画にも映っていて素敵でした」と、幾多の挑戦を重ねてきた“極限の人”の素顔が記録されていることに賛辞を送る。
さらに「(ヒマラヤの難峰)ギャチュンカンの時に、絶対生きて帰ってきてほしいと思ったことや、生きて帰ってくるとみんなで信じて待っていた時のことを思い出しました」と振り返る市毛。「後々話には聞いていましたが、実際にあの環境をイメージできていなかったので、映画を観てこんなことがあったんだと胸が痛くなりました」と語ると、「ギャチュンカンのあとのリハビリで一緒に奥多摩の山を登った時に、山野井さんが登ってくるのを待つという経験を初めてしました。半年後にはそれまで通り待たせてしまいましたけど(笑)」と、山野井とのエピソードを披露した。
一方、「共通の知人や友人はたくさんいるのですが、まだ山野井さんにお会いしたことはないんです」と明かす野口は、「私はスポーツクライミングという競技のほうなので、実際に雪山やアルパインは一度もやったことがなく、ずっと違う世界の人のように感じていました。でもこの映画を拝見して、登りたいという気持ちや目標に向かってトレーニングをして挑む姿を観て共感できる部分がたくさんありました。改めて山野井さんが偉大な人だと再確認できる作品です」と語る。
そして「登りたいという純粋な気持ちや、それに対するモチベーションの高さ、尽きない情熱は、アルパインをやる人もスポーツクライミングをする私のような人間も含め、全クライマーが目指すべき存在だと感じました。私はもう現役を引退しましたが、いまでもクライミングが好きで続けています。山野井さんを見習って、クライミングにもっと真剣に打ち込みたいなと思いました」と強い憧れを抱いたことを告白。
また、自らもヒマラヤ登山経験のある武石監督は「最初に山野井さんに声をかけたのは1991年なのでもう30年以上前。同年代で私も山登りが好きで、絶対に敵わない人を描いてみたいという想いがあり、それがこの作品につながりました」と感無量の面持ちで作品が完成した喜びを吐露。「まさに人生そのものをクライマーであることに賭けた山野井さん。子どものころからのピュアな気持ちや、山を登りたいという思いをずっと維持し続けている姿に憧れます。好きなことに没頭する人生を見て、勇気をもらっていただけたらうれしいです」と本作に込めた思いを述べた。
取材・文/久保田 和馬