『ザ・メニュー』の監督&キャストたちが語る撮影秘話。「この映画は、特権意識を暴走させる人々への明確な考察」
11月18日に日米同時公開となった『ザ・メニュー』の監督とキャストがヴァーチャル記者会見に登壇し、今作の特殊な撮影行程について語った。記者会見に参加したのは、マーク・マイロッド監督と、著名シェフのスローヴィク(レイフ・ファインズ)が提供する極上料理を楽しむため、孤島にあるレストランに集まったクセのある客たち――自称“フーディー”のタイラー役を演じたニコラス・ホルト、彼の連れでグルメには興味を示さないマーゴット役のアニャ・テイラー=ジョイ、“映画スター”のジョン・レグイザモと、彼のアシスタントのフェリシティ(エイミー・カレロ)、そしてレストランを仕切る優秀な給仕長エルサ役のホン・チャウ。
「観客の皆さんにも、レストランに同席しているかのように観察してほしかった」(マーク・マイロッド監督)
ユニークなキャストが集まった『ザ・メニュー』の撮影は、ジョージア州サバンナに特設されたレストランのセットで行われた。マイロッド監督はこのレストランのセットに、たとえ個別のシーンの撮影がなくても出演者全員を揃え、順撮りで撮影を行った。リハーサルは数日間、少人数のグループに分かれて脚本や物語、キャラクターについてのディスカッションを行った。「たしかシドニー・ポラック監督が『全員が同じ映画を作る』という言葉を残していますが、今作のような多ジャンルが同居する映画では、全員が同じレベルで理解していることが大事だと思いました」と、マイロッド監督は語る。『マルホランド・ドライブ』(01)や『キャビン』(12)の撮影監督を務めたピーター・デミングが、レストラン「ホーソン」に2台のカメラを設置し、詳細まで演出された俳優たちの動きを捉えた。
物語を牽引する重要人物でもあるマーゴットを演じたアニャ・テイラー=ジョイは、特殊な撮影環境を評価し、「ある瞬間に物語が急激に動くターニングポイントがあるので、それに備えて没入感を高めておく必要がありました。その瞬間まで私たちみんな、ちょっと変わった条件があると思いながらも楽しく食事をしていたんです。でも“それ”が起きた瞬間に震え上がり、それまでの笑いは姿を消し、本気で息をのみました。映画は巧妙に新しいトーンに移りかわっていったと思います」と語っている。
この急激な転調を演出するため、マイロッド監督はリハーサルを最小限に、脚本にも詳細を書かないよう務めた。あらかじめ、1962年のルイス・ブニュエル監督の映画『皆殺しの天使』を参考作品に挙げ、「この映画より恐ろしいことが起きるから」とキャストに伝えていたそうだ。マイロッド監督はこう続けた。「私たちはほぼ毎日全員が一緒にいて、2台のカメラがどこからねらっているのかわからない、(ロバート・)アルトマン監督の映画のような状況で撮影を続けていました。レストランの客の間に、罪の意識が芽生え始める状況におもしろさを感じたからです。この選民意識とあふれんばかりのエゴに満ちた客たちの虚栄心を覆っていた表皮がだんだんと剥がされ、最終的には身の破滅と引き換えに自ら進んでお勘定を払うような状況を、観客の皆さんにも、レストランに同席しているかのように観察してほしかったのです」。
「この映画は、アメリカで起きている、特権意識を暴走させて対立を生み出す人々についての明確な考察」(ジョン・レグイザモ)
この撮影方法によってキャスト間に仲間意識と親密さが生まれたことで、コメディからドラマへ、カップルの物語からホラーへとトーンが変わっていく映画に一体感をもたらしている。アニャ・テイラー=ジョイがゲスト側のキーパーソンだとしたら、フロアを見渡す“将軍”の任務に就くエルサ役を演じたホン・チャウは、「正直言って『なんて奇妙な脚本の作品に出演すると言ってしまったのだろうか、どんな映画になるか想像もつかない』と思っていました』と告白するが、同時に期待もしていたのだという。「『メディア王』の大ファンだったし、これだけのキャストとスタッフが参加するのだからなんとかなるでしょう、と。この映画の登場人物はあらゆる意味でいけ好かない人たちですが、マーク(・マイロッド監督)なら、彼らの身に起きることに同情できるような物語に仕上げてくれるのではと考えました。驚きなのは、同情以上に、何人かのキャラクターについては心が張り裂けるような気分になったことです。これはマーク・マイロッドの特異稀なる才能ですよね」と、監督の演出技量に太鼓判を押す。
エゴイスティックな映画スター役を演じたジョン・レグイザモは、個人的にはこのような人間を理解できないとしながらも「だからこそ、その“特権意識”とやらを表すようにしました。この映画で描いている政治的・社会的な考察は、特にアメリカ中で、そして世界中でも起きていることでしょう。中産階級が消滅し、民主主義を支配できると考えている億万長者たちがSNSを支配し、分断と排除によって私たちを特別なバブルの中に閉じ込めてしまった。この映画は、アメリカで起きている、特権意識を暴走させて対立を生み出す人々についての明確な考察だと思います。だから、私は喜んで罰せられることにしましょう(笑)」と語る。彼が受ける“罰”は、映画の中で確認してほしい。