役者陣の真摯な演技『ラーゲリより愛を込めて』、異様なラストに圧倒『MEN 同じ顔の男たち』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、辺見じゅんの小説を瀬々敬久監督、二宮和也主演で描いた伝記映画、過去のトラウマに囚われ続ける女性が、“同じ顔の男性たち”と出会い体験する恐怖を描くA24製作のサスペンス・スリラー、自身の師の娘に恋に落ちた青年が、彼女との結婚を巡って繰り広げる愛憎劇の、スリリングな3本。
子どもたちを見つめる慈愛に満ちた表情に驚かされる…『ラーゲリより愛を込めて』(公開中)
ドラマ「マイファミリー」の演技も話題だったが、二宮和也はいつの間にこんなに父親が様になる貫禄を身につけていたのか。冒頭から子どもたちを見つめる慈愛に満ちた表情に驚かされる。そんな理想の父親が家族から引き離され、強制収容所(ラーゲリ)へと送られる。想像を絶する過酷な労働と飢えと寒さ。倒れる者、耐えきれず脱走しようとして処刑される者。生き残っても、自分だけが助かればいいと考える者、友人をも裏切る者、傍観者を決め込む者で誰のことも信じられない。多くの人が尊厳を見失いそうになるなか、二宮演じる山本だけは親切を忘れず、皆を鼓舞し、常に人間であろうとする。
実在の山本幡男の半生を描いた実直な物語を、二宮を中心に松坂桃李、桐谷健太、安田顕といった現在の実力派たちが真摯な演技で魅せる。彼らと対等に渡り合う、兵士ではないのに捕虜にされてなお誰より前向きで優しい青年、新谷役の中島健人の俳優としての成長に目を見張る。犬のクロも名演。(映画ライター・高山亜紀)
鮮やかな変化球で打ちのめされる…『MEN 同じ顔の男たち』(公開中)
タイトルからしてなにやら怪しい予感が漂うが、そんな予想を軽々と超え、未体験の感覚に呆然となる一作。人気のA24作品の中でも、かなり振り切れたテイストで、『LAMB/ラム』(22)に近い心のざわめきを保証したい。目の前で夫を亡くしたハーパー(ジェシー・バックリー)が、現実を忘れるために都会を離れ、広いカントリーハウスをしばらく借りることになる。管理人から説明を受ける彼女は、その後、家の周りで出会う男たちのある共通点に気づき…。
イギリスの田舎町を散策するハーパーが、森のトンネルで不思議な現象に接し、全裸の怪しい男を目にする冒頭から、不安感が一気に増大。そこに夫の死の瞬間、その衝撃映像も重なり、観ているこちらもハーパーの混乱に巻き込まれていく感覚。「同じ顔」とされつつ、男たちが微妙に違って見えるなど、じわじわと恐怖が高まっていき、クライマックスでは過去のどんな映画とも違う、異様なビジュアルに圧倒される。作品全体から伝わるテーマは鋭いジェンダー問題だが、鮮やかな変化球で打ちのめされ、大胆この上ない映像体験となることだろう。(映画ライター・斉藤博昭)
“純粋”過ぎる恋慕は、もはや狂気と紙一重…『天上の花』(公開中)
“太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ~”などで知られる、温かな詩を書く繊細な詩人というイメージからすると大衝撃!三好達治が師と仰いだ萩原朔太郎の娘、萩原葉子が、葉子の恩人であったという達治の死後に著した「天上の花-三好達治抄-」が映画化された。朔太郎(吹越満)の末の妹、慶子(入山法子)に一目惚れした達治は、求婚するも貧しさゆえに拒絶される。別の女性と結婚し一男一女をもうけるが、十数年後に慶子と再会し、恋の炎が再び燃え上がる。慶子が夫と死別したと知るや、稼げるようになった達治は再び求婚。離婚を願い出て妻子を捨て、越前の三国に慶子を呼び寄せ結婚生活を始める。
いきなり妻と幼子を切り捨てる“クソっぷり”なんて序の口。恋焦がれてついに一緒になった慶子に、なんと達治は手を上げるようになる。ワガママな慶子が達治の純愛を踏みにじる態度を取り続けた側面もあるかもしれない。だが慶子との初夜における達治の態度に、その後の“狂信”の片鱗を見る。達治が口走る言い訳が可笑しくて時に噴いてしまうが、“純粋”過ぎる恋慕は、もはや狂気と紙一重。殴られてもなお凛と我を貫く慶子vs我を失い殴る達治の図式は終盤、もはやホラー・サスペンスのごとし。文人の意外なる素に慄きつつ、よくぞここまで描き切ったことにも驚く。こんなクズっぷりを恐れず体現した東出昌大も天晴れだが、超ツンデレワガママ美女を演じた入山法子にも魅せられた!(映画ライター・折田千鶴子)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼