史実と現代風なアレンジとがミックス『近江商人、走る!』、幻惑される悦びに浸れる『柳川』など週末観るならこの3本!

コラム

史実と現代風なアレンジとがミックス『近江商人、走る!』、幻惑される悦びに浸れる『柳川』など週末観るならこの3本!

週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!
週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!

MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、”日本三大商人”と称される”近江商人”として町の人々を救う青年の姿を描く時代劇エンタメ、弟が不治の病にかかったことを機に、中年の兄弟2人が過去を辿るべく心の旅に出るドラマ、アメリカの人気歌手、ホイットニー・ヒューストンの栄光と苦悩を描く伝記映画の、心掴まれる3本。

手堅くまとめ挙げた好感が持てる1本…『近江商人、走る!』(公開中)

【写真を見る】千両という多額の借金を1ヵ月で返すために銀次が編み出した作戦とは?(『近江商人、走る!』)
【写真を見る】千両という多額の借金を1ヵ月で返すために銀次が編み出した作戦とは?(『近江商人、走る!』)[c]2022 KCI LLP

ビジネス時代劇と銘打ち、享保の時代を背景に商人、銀次の成長を描いている。アイデアマンの銀次が、大工たちに相互扶助の組合を作らせたり、人気番付のトップにするために茶屋娘のライブショーを開いたりと、この時代を描いたにしては現代的なアレンジが随所にみられる。一方でクライマックスの櫓に上って、旗振り通信をすることで、60㎞離れた大坂と大津の米相場の情報をいち早く得ようとする、銀次の奇抜な作戦。これは歴史的に実際に行われていた情報収集方法で、史実と現代風なアレンジとがミックスされた、気軽に楽しめる娯楽作になっている。

まだ20歳そこそこの上村侑が主演の銀次を見事に演じ、彼の主人に扮した筧利夫、悪い奉行役の堀部圭亮など、個性的なキャストも適役。劇場用映画は3本目で、時代劇は初挑戦という三野龍一監督が、粗削りながらも登場人物たちのキャラクターを生かして、手堅くまとめ挙げた好感が持てる1本だ。(映画ライター・金澤誠)

日本にこんなに寂寞としながらも美しく幻想的な場所があったのか…『柳川』(公開中)

福岡県、柳川を舞台に、不治の病を患った男が、兄、そして恋人と再会する『柳川』
福岡県、柳川を舞台に、不治の病を患った男が、兄、そして恋人と再会する『柳川』

福岡県の柳川を舞台に、そこで暮らす中国人女性と、旅で訪れた中年兄弟2人の再会、孤独や喪失感、過去をたどっていく心の旅――その内省的な時間をゆったり流れるように紡いだ中国映画。自分が不治の病だと知ったドン(チャン・ルーイー)は、疎遠にしていた兄チュン(シン・バイチン)を誘い、2人が青春時代に愛した女性の名と読み方が同じで、彼女が暮らす「リウチュアン=柳川」を訪れることに。リウ・チュアン(ニー・ニー)はかつてチュンの恋人だったが、20年前、理由も告げずに姿を消した。2人はついに彼女と再会するが――。

軸となるのは、兄弟に加え、いつしか宿主(池松壮亮)をも惹き付けずにおかない、謎めいたチュアンの魅力。微かな表情の変化、柔らかくかすれる歌声、指先まで優雅な踊り――チュアンを演じるニー・ニーの全身のなめらかな美しさ、燦然とではない“淡い光”が放つ引力に観客も吸い寄せられる。かつて兄弟と何があったのか、なぜチュアンは消えたのか。3人はどんな風に生きて来たのか――。途切れがちな会話、口に出せない思い、予期せぬ衝動、そして異世界へ連れ去るような町を緩やかに流れる柳川。日本にこんなに寂寞としながらも美しく幻想的な場所があったのか、中国人の監督&韓国の撮影チームの手によると、こんな風に切り取られるのかと、幻惑される悦びに浸れる112分。監督は中国出身の朝鮮族というルーツを持ち、これまで『キムチを売る女』(07)など韓国映画を撮って来たチャン・リュル。(映画ライター・折田千鶴子)


名曲の数々をヘビロテしたくなるのは確実…『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』(公開中)

夭逝の大人気歌手、ホイットニー・ヒューストンの半生を描く(『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』)
夭逝の大人気歌手、ホイットニー・ヒューストンの半生を描く(『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』)

主演映画『ボディガード』(92)の主題歌「オールウェイズ・ラヴ・ユー」など多数の大ヒット曲をもち、いくつもの記録を打ち立てたホイットニー・ヒューストン。いまから10年前の2012年、その早すぎる死は世界中を驚かせ、悲しませた。本作は彼女の人生を丁寧に追った自伝映画。名プロデューサーがその才能に惚れ込む瞬間から、新曲へのこだわり、スーパーボウルでの国歌斉唱、『ボディガード』の撮影現場など、キャリアにおける重要なトピックに、後にマネージャーとなった女性との愛情関係、ボビー・ブラウンとの結婚と別れ、家族のドラマが絡み、観ているこちらも偉大なシンガーの足跡をたどる感覚だ。

ホイットニー役のナオミ・アッキーは、本人のムードを的確に再現。歌は基本的にホイットニーの音源が使われているが、映像とまったく違和感がない。脚本家が『ボヘミアン・ラプソディ』(18)と共通とあって、ドラマが歌に変わる流れもスムーズ。最高のパフォーマンスを冒頭で予告するのも『ボヘミアン』と同じだ。人生の終盤は、ドラッグやアルコールに溺れながら、挫折から復活へかける姿が観ていて痛々しいものの、彼女が誰を心から愛したのかを考えれば、いやされる瞬間も…。いずれにしても観終わった後、名曲の数々をヘビロテしたくなるのは確実だろう。(映画ライター・斉藤博昭)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

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