『続・夕陽のガンマン』から『ニュー・シネマ・パラダイス』まで、モリコーネを愛する映画ライターがクロスレビュー

コラム

『続・夕陽のガンマン』から『ニュー・シネマ・パラダイス』まで、モリコーネを愛する映画ライターがクロスレビュー

2020年7月、突然この世を去ってしまった偉大な作曲家、エンニオ・モリコーネ。第88回アカデミー賞作曲賞に輝いた『ヘイトフル・エイト』(15)をはじめ、実に500作品以上という驚異的な数の映画、テレビ作品に携わり、2006年にはその全功績を称えて名誉賞がアカデミー賞から贈られている。そんな伝説のマエストロの生前を5年以上にわたってカメラに収め、その人生や音楽にかける情熱、知られざる葛藤に迫ったドキュメンタリーが『モリコーネ 映画が恋した音楽家』(公開中)だ。監督を務めたのは、彼の弟子であり親友でもあるジュゼッペ・トルナトーレ(『ニュー・シネマ・パラダイス』『鑑定士と顔のない依頼人』など)。そこで本稿では、モリコーネが作曲した映画音楽を愛する映画ライターによるクロスレビューを企画。それぞれが思い入れの深い作品をピックアップし、楽曲の魅力や思い出を語っていく。

盟友、ジュゼッペ・トルナトーレがモリコーネの創作に迫ったドキュメンタリー『モリコーネ 映画が恋した音楽家』
盟友、ジュゼッペ・トルナトーレがモリコーネの創作に迫ったドキュメンタリー『モリコーネ 映画が恋した音楽家』[c]2021 Piano b produzioni, gaga, potemkino, terras

マカロニウエスタンに堂々とした風格を与える『続・夕陽のガンマン』

映画音楽の作曲家として、エンニオ・モリコーネの名前を一躍有名にした『荒野の用心棒』(64)。そこで世の中に衝撃を与えたモリコーネ流ウエスタン音楽の一つの完成形ともいえるのが、『荒野の用心棒』と同じく、セルジオ・レオーネ監督、クリント・イーストウッド主演による『続・夕陽のガンマン』(67)だ。舞台は南北戦争真っ只中のアメリカ。隠された南軍の軍資金を巡って、ブロンディ(イーストウッド)、エンジェル(リー・ヴァン・クリーフ)、ティコ(イーライ・ウォラック)の3人のガンマンたちによるドラマが展開する。1000人以上のエキストラが参加した本作は、大がかりな戦争シーンも取り入れて3時間近い大作になった。

南北戦争時代のアメリカを舞台に、3人のガンマンが南軍の金貨を求めて冒険を繰り広げる(『続・夕陽のガンマン』)
南北戦争時代のアメリカを舞台に、3人のガンマンが南軍の金貨を求めて冒険を繰り広げる(『続・夕陽のガンマン』)[c]Everett Collection/AFLO

サントラのメインテーマは、口笛、トランペット、エレキ・ギターというユニークな組み合わせに、コヨーテの鳴き声をイメージした雄叫びのようなコーラスが加わる。従来の映画音楽とは違う実験的なサウンドながらも映画的で、鳥肌が立つほどカッコいい。そして、クライマックスの墓場のシーンで流れるドラマティックなナンバー「黄金のエクスタシー」も人気曲。ヘヴィメタル界の重鎮、メタリカがライヴのオープニングに使っていたこともあるテンションが上がる曲だ。レオーネのアクの強い映像に負けないくらい個性的だけど気高く美しい。そんなモリコーネの音楽が、キワモノ扱いされたマカロニウエスタンに堂々とした風格を与えている。(映画/音楽ライター・村尾泰郎)

バイオレンス描写に美しい音楽が被さる『アンタッチャブル』

『エーゲ海に捧ぐ』(79)でエンニオ・モリコーネを知ったのはローティーンの時。当時はエロい映画の音楽を作った人か…程度のボンクラ中学生らしい認識だったが、様々な映画体験を重ねていくうちに、この人のすごさが未熟者なりに、だんだんとわかってきた。特に1980年代、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)の美麗、『ミッション』(86)の勇壮と、ロバート・デ・ニーロ主演作での変幻自在の仕事ぶりはすごかった。極めつけは『アンタッチャブル』(87)。

禁酒法時代のアメリカのシカゴを舞台に、ギャングのボス、アル・カポネの逮捕に尽力した捜査官チームの戦いを描く『アンタッチャブル』
禁酒法時代のアメリカのシカゴを舞台に、ギャングのボス、アル・カポネの逮捕に尽力した捜査官チームの戦いを描く『アンタッチャブル』[c]Everett Collection/AFLO

リズミカルなメインタイトルからしてグッとつかまれる。さらに、『ワンス~』以上のバイオレンス描写に被さる美しい音楽。駅の階段で乳母車が下り落ち、そのさなかに繰り広げられる銃撃戦では、オルゴールによるワルツの子守歌に不穏な管楽、そして弦楽が重なっていく。その美しくも異様な響きと言ったら!ブライアン・デ・パルマ監督のスローモーション映像の効果も相まって、この場面とは絶対に切り離せない名曲となった。『モリコーネ 映画が恋した音楽家』を観ると、この場面がますます好きになる。(映画ライター・有馬楽)

メロディを耳にしただけで本能的に感動が甦る『ニュー・シネマ・パラダイス』

そのメロディを耳にしただけで、パブロフの犬のように肉体が本能的に反応。胸の奥にツーンと甘いなにかがあふれ出し、やがて涙腺が震える。多くの人に、そんな化学反応を起こすのが、『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)の音楽だと断言したい。たしかに音楽の使われ方は、いい意味で“あからさま”。主人公トトの少年時代の純粋な喜び、青年期の恋のときめき、周囲の人たちとの温かな絆…と、各ターニングポイントで、その喜怒哀楽を鮮やかに表現するメロディが被さるのだが、それが決して演出っぽく感じられない。エンニオ・モリコーネのこれまでの仕事のなかでも、心地よさ、優しさ、エモさなど各要素が最高に美しく溶け合ったサウンドトラックが完成したからだろう。重要なシーンで何度もリフレインされるメロディが、最後の最後、究極の盛り上がりに貢献するのは言うまでもない。

主人公の少年トトの視点を通して、あふれる映画愛が映しだされる(『ニュー・シネマ・パラダイス』)
主人公の少年トトの視点を通して、あふれる映画愛が映しだされる(『ニュー・シネマ・パラダイス』)[c]Everett Collection/AFLO

そしてなにより、『ニュー・シネマ・パラダイス』の音楽が代弁するのは、故郷、および失われつつある映画文化へのノスタルジー。終盤には過去と現在を音楽で鮮やかにつなぐ名シーンがあるように、耳にするだけで、誰もが懐かしい時代へ引き戻される。そんな魔力を備えているのだ。舞台となったイタリア、シチリア島の明るく乾いた空気を音楽で表現したようでもあり、開け放たれた窓のカーテンが揺らめく、あまりに静かなオープニングは、音楽がシチリアの風を運んでいるかのよう。とくに2回目、3回目に観る時は、このオープニングのメインテーマでこれから訪れる感動への準備、そのスイッチが入ってしまうのだ。(映画ライター・斉藤博昭)

『モリコーネ 映画が恋した音楽家』には、今回紹介した映画音楽にまつわるエピソードも語られている。ほかにも様々な名曲が次々と登場し、改めてエンニオ・モリコーネへのリスペクトを感じるとともに、それぞれの作品も観返したくなるはず。愛と幸福に満ちたモリコーネ音楽の世界に劇場でゆったりと浸ってみてほしい。

構成/サンクレイオ翼

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