映画製作禁止、度重なる検閲…権力に挑み続けるロウ・イエ監督が語る、中国社会の縮図と “表現”することへの情熱

インタビュー

映画製作禁止、度重なる検閲…権力に挑み続けるロウ・イエ監督が語る、中国社会の縮図と “表現”することへの情熱

時代の過渡期にある中国を果敢に撮りあげてきた、中国映画の第六世代として名を馳せるロウ・イエ監督。『天安門、恋人たち』(06)では当局から5年間の映画製作・上映禁止処分を受けたが、2018年製作の監督作『シャドウプレイ【完全版】』も様々な検閲を乗り越えたあと、再度編集を熟考してカットした部分を一部復活させた、文字通り“完全版”としてようやく日本公開となった。

2019年の第20回東京フィルメックスオープニング作品として日本初上映された『シャドウプレイ』は、中国広州市の都市再開発で取り残された一画の洗(シエン)村で、ヤン・ジャートン刑事(ジン・ボーラン)がある事件の真相を執念深く追っていくクライムサスペンス。MOVIE WALKER PRESSでは、2019年にロウ・イエ監督が来日した際にインタビューを敢行。今回の“完全版”公開にあわせて、制作秘話や北京市による検閲についての想いを、4年越しでお届けする。

「人間をしっかりと捉えた映画を作ることで、そこから社会の縮図が見えてくる」

『シャドウプレイ【完全版】』を手掛けたロウ・イエ監督
『シャドウプレイ【完全版】』を手掛けたロウ・イエ監督

ビジネス街に囲まれ、“都会村”と呼ばれていた洗村。ロウ・イエ監督は、2010年にこの村で実際に起きた、立ち退きに反対する住民たちによる騒乱暴動から本作の着想を得たそうだ。「非常に複雑な社会的事件でした。改革開放が進んだ1980年代から、1990年代の経済成長期、2000年代のバブル期を経ての30年にわたる物語が集約されていて、まさに中国が現代化に向かっていくなかで起きた典型的な事件です。本作を撮った時、まだその村が存在していたから、いわば劇中の空間は歴史の標本的なものになりました」と撮影時を振り返る。

『シャドウプレイ【完全版】』の撮影風景(写真は本作のメイキングフィルム『夢の裏側』)
『シャドウプレイ【完全版】』の撮影風景(写真は本作のメイキングフィルム『夢の裏側』)[C]Dream Factory Limited (Hong Kong)

冒頭のほうで出てくる、空撮を交えた流麗なカメラワークで切り取られた実際の洗村の映像が印象的だ。「洗村では、高層ビルの窓から見下ろした先で、子どもたちがサッカーをしたりしていたので、そういう空間の処理がおもしろいと思いました。撮影にあたっては、広州市の政府や市役所の方々、洗村の住民委員会の人たちに大変お世話になりました。特にプロダクションデザインの段階では、広州市の地図を基に、洗村や登場人物たちの家などをデザインしていけたのでありがたかったです。いろんな面倒なこともありましたが、無事に撮り終えることができました」。

劇中では、洗村で暴動が起きた最中に、市当局の責任者であるタン・イージエ(チャン・ソンウェン)が転落死する。はたして彼は自殺か、それとも他殺であるのか?ここを起点に、過去と現代が交錯して描かれていく。やがてタンの妻リン・ホイ、その娘・ヌオ(マー・スーチュン)や、開発事業を一手に握る紫金不動産のジャン・ツーチョン(チン・ハオ)、ジャンのビジネスパートナーである台湾人リエン・アユン(ミシェル・チェン)らの様々な人間関係が明かされていき、ヤン刑事も”ある陰謀”に巻き込まれていく。

暴動の最中に転落死するタン・イージェタンとタンの妻リン・ホイ、紫金不動産のジャン・ツーチョン
暴動の最中に転落死するタン・イージェタンとタンの妻リン・ホイ、紫金不動産のジャン・ツーチョン[c]DREAM FACTORY, Travis Wei

ジン・ボーランのキャスティングについて「この映画を若い世代に観てほしいと思ったことが要因の1つですが、彼に決定する前に、有名無名に関わらず、たくさんの俳優に会いました。そのなかでジン・ボーランに、ひと際魅力を感じたんです。でも、彼からは『はたして僕が刑事役をやれるでしょうか?』と不安そうに聞かれたので、『本物の刑事って、実は刑事らしく見えない人が多いので大丈夫ですよ』と答えました」と笑顔を交えて話す。

また「ジン・ボーランはヤン刑事役にとても興味を持ってくれたし、本物の刑事さんと数週間に過ごしてもらい、いろんなことを基礎から学んでもらったんです。彼はとても飲み込みの早い人で、すぐに刑事の雰囲気を掴んでくれました」と、ジン・ボーランの入念なアプローチについても語った。

【写真を見る】クールな色気が漂う中国の人気俳優、ジン・ボーランが魅せる大人の輝き
【写真を見る】クールな色気が漂う中国の人気俳優、ジン・ボーランが魅せる大人の輝き[c]DREAM FACTORY, Travis Wei


社会問題に斬り込みながらも、そこに男女の三角関係や家族問題が絡んでいく本作は、伏線も巧妙な人間ドラマとなった。「いくらマクロ的な歴史を撮ろうとしても、やはり限界があります。人間をしっかりと捉えた映画を作ることで、そこから社会の縮図が見えてくるから、あくまでも個人、あるいはその家族の物語として、人間と人間の関係をきちんと描くことが大切です」。

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