離島に幽閉された男たちの”破局”。『イニシェリン島の精霊』監督が、トキシック・マスキュリニティの本質を探る

インタビュー

離島に幽閉された男たちの”破局”。『イニシェリン島の精霊』監督が、トキシック・マスキュリニティの本質を探る

舞台作家からアカデミー賞ノミネートの常連に…「非常に個人的な物語を映画化するのが楽しい」

マクドナーは、ケリー・コンドンが演じたシボーン役を「この映画で最も興味深い役」だと語る
マクドナーは、ケリー・コンドンが演じたシボーン役を「この映画で最も興味深い役」だと語る[c]2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

いまの言葉で言うとトキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)も物語に影響を及ぼしている。小さな島に幽閉されたような人生をおくる男たちは、多かれ少なかれ抑制されている。その閉塞感によって小さな仲違いが大きな悲劇にまで膨らんでいく。だからこそ、パードリックの妹のシボーン(ケリー・コンドン)の視点が活きてくる。マクドナーは、ケリーが演じた役はこの映画で最も興味深い役どころだと語る。

「すべてを俯瞰しているシボーンが、やがて行動に起こすからです。コリンが演じたパードリックは、絶望感を押し殺すことを良しとしています。男性には本質的にそのようなところがあります。いまの考え方では、最良の方法ではないとわかりますが。男たちがそういったプレッシャーに気づき、発散できていれば事態は異なったでしょう。私が同じ状況だったとしても、躊躇してしまったと思います。そういう意味では、私も男性性に抑圧されているのでしょう。こういった、男性の感情抑圧の本質を探るのはとても興味深く、おもしろかったですね」


第95回アカデミー賞で助演男優賞にノミネートされたブレンダン・グリーソン
第95回アカデミー賞で助演男優賞にノミネートされたブレンダン・グリーソン[c]2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.

いまでこそアカデミー賞ノミネートの常連となり、映画界での功績も積み上がるマクドナーだが、もともとは舞台作家として数々の名作戯曲を発表してきた。だが、10代で映画に興味を持ったのが創作活動を始めるきっかけだったそうだ。「物語を伝える仕事をしてきましたが、自分自身が映画を作るようになるとは思ってもいませんでした。映画界の一部となり、スーパーヒーロー映画とは異なる非常に個人的な物語を、映画として世に送りだせることに喜びを感じています」と、マクドナーは最後に述べた。これからも、独自の世界観を持った作品を作り続けることだろう。

取材・文/平井伊都子

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