『少女は卒業しない』で初主演。躍進を続ける俳優・河合優実が明かしたモットーは「映画を観る側であり続けること」

インタビュー

『少女は卒業しない』で初主演。躍進を続ける俳優・河合優実が明かしたモットーは「映画を観る側であり続けること」

2021年公開の『サマーフィルムにのって』や『由宇子の天秤』、昨年も『ある男』『PLAN 75』をはじめとした話題作に次々と出演する快進撃で、新人賞ほか数々の映画賞を受賞。作品ごとに違う顔を見せながら、観る者を魅了する独自の存在感を放つ河合優実は、映画ファンはもちろん、映画の作り手たちからも熱い視線を浴びる、いま最も勢いに乗っている俳優のひとりだ。『少女は卒業しない』(公開中)はそんな彼女の、意外にも初主演映画。インタビューも「長編の商業映画で、オーディションではない形で主演のお話をいただいたのは初めてだったので、浮き足立たないようにしようと思ったぐらい気合いが入りましたね」という初々しい言葉から始まった。

現在22歳の河合優実。『サマーフィルムにのって』『PLAN75 』など、近年話題作の出演が続く
現在22歳の河合優実。『サマーフィルムにのって』『PLAN75 』など、近年話題作の出演が続く撮影/垂水佳菜

「窪塚くんの普段の姿からヒントをもらって、駿のイメージを膨らませていきました」

「この映画を撮った、中川駿監督の短編『カランコエの花』をたまたま観ていたのも大きかったです。自分がこっち(俳優)の道に行こうかなと考えていた時に観た映画だったので印象に残っていて、この映画はその中川さんが監督だったからビビッときたと言うか」。

朝井リョウ原作の『少女は卒業しない』。高校卒業を控えた4人の少女の恋を描きだす
朝井リョウ原作の『少女は卒業しない』。高校卒業を控えた4人の少女の恋を描きだす[c] 朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会

本作は廃校が決まった高校を舞台に、3年生の4人のヒロインが卒業式を迎えるまでの2日間を描いた青春群像劇。河合はそのなかのひとり、彼氏の駿(窪塚愛流)に対する“ある想い”を抱えながら、卒業式代表の答辞を担当する山城まなみを演じたが、「物語の核に関わることなので、詳しくは言えないのですが、まなみは私がいまから経験しようと思ってもできないことを経験してしまっているので、そこをどう埋めていくのかが大きなテーマでした」と振り返る。

「そこがちゃんとしないとこの映画は成立しないのはわかっていたから、原作からイメージを膨らませたり、監督に相談したりしましたね。なかでも、中川さんが話してくださった、まなみの経験に通じる中川さん自身の個人的な体験が大きなヒントになって。演じる時の軸になったので助かりました」。

高校時代のかけがえのない日々はその時だけのもの。映画には4人のヒロインのそんな特別な時間が刻まれていて、まなみが作ってきたお弁当を、駿と一緒に食べる調理室のシーンにも、忘れられない大切な感情が記録されている。

「あのシーンが、ふたりのキラキラしていた時間のピークだと思います。でも、窪塚くんとはほとんど『はじめまして』みたいな状態で臨まなければいけなかったので、窪塚くんの普段の姿からヒントをもらって、駿のイメージを膨らませていきました。彼は居方や佇まいが独特で、ふわふわした感じや喋り方がお父さん(窪塚洋介)に似ていたんです。その現実味のない感じが駿という人物像とマッチしているとも思ったので(笑)」。

「同じ目線に立ってくれる中川監督だったから、言ってみようかなと思えたんです」

そんな駿との愛おしい時間は、卒業式のシーンでボディブローのように効いてくる。そして複雑な感情を抱えたまなみが、卒業ライブで軽音部の森崎剛士(佐藤緋美)が熱唱する「Danny Boy」を聴くシーンでは、「撮影の本番まで、彼の歌を聴かないようにしました」とこだわりを言葉にする。「素直に感動したかったですからね。本番の時に初めて聴きたかったんです」。その言葉からも、まなみとしてそこにいようとする河合の気持ちが伝わってきた。

メガホンを取った中川駿監督への信頼を明かした河合優実
メガホンを取った中川駿監督への信頼を明かした河合優実撮影/垂水佳菜

「もちろん、違うアプローチで臨む時もあります。でも、あのシーンは歌を聴いてまなみとして反応するだけだし、最後の答辞を読むシーンも同様で。そういう時は新鮮な気持ちをどうやって作ろうかなって考えます」。

それこそ、クライマックスの答辞のシーンでは、自ら「カメラテストやリハーサルをやらずに、最初からカメラを回してほしい」と中川監督にお願いしたという。「何度でもやるつもりではいたんですけど(笑)、最初が一番よかったら、それを使ってほしくて」と、あくまでも新鮮さを考えての発言だったことを強調し、「あまりそんなお願いをすることはないんですけどね。新人の立場では言えないから」とちょっとはにかみながらも、「今回は中川さんが『思ったことを共有して、みんなで作りましょう』って最初に全員に伝え、同じ目線に立ってくれる監督だったから、言ってみようかなと思えたんです」と笑顔を見せる。

河合が等身大で臨んだ、まなみが答辞を読むシーン。誰もが心揺さぶられるはずだ
河合が等身大で臨んだ、まなみが答辞を読むシーン。誰もが心揺さぶられるはずだ[c] 朝井リョウ/集英社・2023 映画「少女は卒業しない」製作委員会


「でも、自分からそう言った手前、あの撮影はすごく緊張感がありました。セリフをちょっと噛んでいるところやうまく言えてないところもそのまま使っていますけど、それも結果中川さんが活かしてくれたから、言ってよかったなと思います。今後の現場でも、思ったことは臆せずにどんどん伝えていった方が、映画がおもしろくなるかもしれない。そういう気持ちになれたのもよかったですね」。

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