大人に恋は難しい!韓国の教育熱を描く「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」がラブコメとしても傑作な理由

コラム

大人に恋は難しい!韓国の教育熱を描く「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」がラブコメとしても傑作な理由

オーディションや就職活動など、様々な局面において“競争大国”と呼ばれて久しい韓国は、世界でも有数の教育熱心な国民性だ。そうした社会を反映して、「グリーン・マザーズ・クラブ」や「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」「シュルプ」など、舞台と手法を変えつつも、熾烈な受験戦争はこれまでたびたびドラマや映画の題材となってきた。「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」は、大人の恋愛を中心に教育バトルを描くヒューマン・ラブコメディだ。過剰な教育熱は時に子供たちの人生を揺るがすプレッシャーとなり、現実では家庭をも崩壊させてしまう場合もあるが、そうしたテーマの重さを丁寧に扱いながらも軽妙さがほど良い。放送開始当初はさほど伸びなかった視聴率も、ストーリーを重ねるごとにSNSなどで話題が沸騰し急上昇。韓国のソルラル(韓国における旧正月)のような連休期間はドラマの視聴率が低く出る傾向にあるにもかかわらず、本作に限っては前週を上回る好成績を叩き出した。12日の第10話では平均13.5%、瞬間最高15.3%を記録した(ニールセン・コリア全国有料世帯基準)。徐々に数字を上げてくるあたり、ドラマが高いクオリティであることを証明している。

「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」の主人公は、人気一位のスター講師、略して“イルタ講師”として受験生から熱く支持されている数学講師のチェ・チヨル(チョン・ギョンホ)と、小さな惣菜店を営むナム・ヘンソン(チョン・ドヨン)。まるで住む世界が異なる2人は思わぬ偶然で知り合い、ヘンソンの娘ヘイ(ノ・ユンソ)に数学を教えることをきっかけに、反発を繰り返しながらも惹かれ合っていく。

【写真を見る】元ハンドボール国家代表だったヘンソン(チョン・ドヨン)。自分の人生を省みず家庭を守ってきたたくましい女性
【写真を見る】元ハンドボール国家代表だったヘンソン(チョン・ドヨン)。自分の人生を省みず家庭を守ってきたたくましい女性[c]tvN

2人のロマンスは、ヘンソンの弟ジェウ(オ・イルシク)を巻き込んだハプニングから始まる。いわゆる“最悪の出逢いから始まる運命のラブストーリー”は韓国ドラマの王道で、視聴者にとっては安心感がある反面、既視感もある。しかし本作は、現実味ある受験戦争とそれをめぐるサスペンスフルなストーリーライン、キャラクターたちの葛藤と和解のドラマや、確かな演技力を持つ俳優陣によって既存の作品とは一線を画している。今回は、毎回ユーモアと味わい深い感動をくれる本作の魅力を掘り下げてみたい。

ストレスに契約トラブル…栄光の影にあるカリスマたちの憂鬱


「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」のキャラクターで興味深いのは、変わり者なくらい仕事一筋で、優秀さと教育への熱意だけで生きているチヨルが代表する“イルタ講師”だ。彼らは、今や韓国の教育事情を語る上で欠かせない存在となっている。入試のための塾の95%が乱立する江南区・テチ洞には多くの“イルタ講師”が集結し、ファンダムのようにして保護者や生徒たちが群がっている。ちなみに、「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」の主要ロケ地は、テチ洞の塾通りだ。

合理主義で感情のやり取りを嫌うチヨル(チョン・ギョンホ)だが、ヘンソンの作る惣菜に懐かしさを覚える
合理主義で感情のやり取りを嫌うチヨル(チョン・ギョンホ)だが、ヘンソンの作る惣菜に懐かしさを覚える[c]tvN


リアルな“イルタ講師”たちの様子を見てみると、明晰な頭脳が支える指導力はもちろん、ウィットの利いた語録や、勉強の緊張を和ませるサービス精神がMZ世代(1981年~2010年の間に生まれた人たちのこと)の心を掴み、カリスマ的な信奉を集めているのがわかる。脚本の段階から複数の私教育機関や講師にアドバイスを受けたというあたり、チヨルが大胆かつユーモアあふれるセリフや生徒たちを沸かせるハイキックのパフォーマンスは、おそらくリアルに忠実なのだろう。また、チヨルが「1兆ウォンの男」を自称しているように、たとえば累積受講生850万人を誇る数学のチョン・スンジェ講師は、あるバラエティ番組で年収を「メジャーリーグ選手に似ている」と明かしている。メジャーリーガーの年俸は最大で400億ウォンと言われているので、相当な金額を手にしているようだ。

ヘイ(ノ・ユンソ)と優しい同級生ソンジェ(イ・チェミン)のフレッシュな恋模様も見逃せない
ヘイ(ノ・ユンソ)と優しい同級生ソンジェ(イ・チェミン)のフレッシュな恋模様も見逃せない[c]tvN

その一方、人気稼業もドラマ同様に楽ではない。クラスメートとその親から優秀な成績を妬まれたヘイは、策略により特別選抜クラスから除外されてしまう。不正が大嫌いなチヨルは、「私教育界が大騒ぎになる」という理由から極秘ミッションとしたう上で、彼女の家庭教師を買って出る。“イルタ講師”と言えども、しがない雇われの身。こうした契約や移籍によるもめ事は日常的に起きていて、競合企業への移籍で争いになり損害賠償請求にまで至ったケースもある。もちろん、ドラマで描かれているように受講生や保護者からのプレッシャー、同僚からの嫉妬によるストレスからも逃れられない。かつて生徒との間に起きた事件をきっかけに、チヨルは摂食障害に苦しんでいた。一説によれば、“イルタ講師”でい続けられるのは5年がリミットだ。人気にあぐらをかいて油断したり、研究を怠るとすぐに蹴落とされてしまう。ある講師は「“イルタ講師”になって、なぜ人気スターが自殺をしてしまうか分かった」とこぼす。彼らもまた受験生と同じく激しい競争を勝ち抜いていかなければならないのだ。誰もがチヨルのように、限界まで体を酷使してしまうのだろう。

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