大人に恋は難しい!韓国の教育熱を描く「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」がラブコメとしても傑作な理由

コラム

大人に恋は難しい!韓国の教育熱を描く「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」がラブコメとしても傑作な理由

主演からバイプレイヤーまで勢ぞろい!韓国ドラマファンが信頼する俳優たちの安定感に大満足


軽いタッチのラブコメかと思いきや、知らないうちにすっかりのめり込んでしまった―「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」には、そうした想像以上の中毒性がある。分かりやすいラブコメディーは、俳優陣の演技が作品の完成度を左右する。本作は役者たちの好演が光り、ドラマをより見応えあるものにした。

シリアスな役が多かったチョン・ドヨンの“陽キャ”演技に注目!
シリアスな役が多かったチョン・ドヨンの“陽キャ”演技に注目![c]tvN

チョン・ドヨンは「プラハの恋人」以後17年ぶりのロマコメに復帰となった。息子を殺害されたシングルマザーの救済と絶望、そして再生を凄絶に体現した『シークレット・サンシャイン』(07)でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞して以来、韓国映画ファンのみならず幅広い支持を得ていた信頼できる俳優だ。一方、このような世界的な評価のため、ハードでシリアスな役柄しか回ってこないことに少々戸惑いがあったという。実はチョン・ドヨン、素顔はかなり陽気な性格。もっと軽やかなユーモア満載の作品に出演したいと熱望していたそうだ。たしかに、地元に親しまれる総菜店を切り盛りする素朴な庶民のキャラクターは、これまでの彼女のキャリアではあまり見られない新鮮な姿だ。それでいながら、ハンドボール国家代表という夢と幸せを捨ててヘイを育て上げたヘンソンが、日々の幸福にささやかな喜びを感じたり、または自身の来し方行く末を思い一抹の寂しさを表情に宿す。今回、30代のヘンソンを50代のチョン・ドヨンが演じることに対して、韓国では年齢と容貌への中傷が一部から相次いだという。奇しくも社会に根強く残る偏見をあぶり出したことで、劇中のヘンソンが恋愛に消極的な態度を取る理由を補強してしまった形だが、人間の奥行きを出せるのはチョン・ドヨンだからこそではないだろうか。

さらにキャラクターを完全にこなしたと言えるのが、チェ・チヨルを演じたチョン・ギョンホだ。2020年に「賢い医師生活」で演じた胸部外科教授のキム・ジュンワン役で、チョン・ギョンホを発見した視聴者が多いかもしれない。ハイスペックな男性であり、名誉や利益に囚われているところがあるが、好きな女性の前では素直になれない純情さが魅力的だった。すでに最高潮を迎えていた彼ではあるが、「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」で再びベストアクトを更新した感がある。裕福で品があり、自分にも他人にも厳しくて合理主義なチヨルという人物を演じるのに、183cm70キロという痩身と、知性が見え隠れする穏やかな顔立ちのチョン・ギョンホは最適だったように思う。巷でも、摂食障害で食事が出来ないナーバスな性格を見事に表現し、“イルタ講師”という属性に説得力を持たせるために重要な講義の姿と板書が本物のようだと絶賛されている。


カリスマ性溢れる“イルタ講師”を完璧に演じるチョン・ギョンホ
カリスマ性溢れる“イルタ講師”を完璧に演じるチョン・ギョンホ[c]tvN

こうした主演の二人だけではない。「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」の行き届いた演出は、脇を固める俳優たちの堅実な演技にも感じる。ヘンソンの高校時代を演じるのは、「未成年裁判」で凶悪犯罪に手を染める少年の役で他を圧倒したイ・ヨン。凄腕ハンドボール選手という役柄とチャームポイントのマニッシュな魅力が合っている一方で、ヘイを見つめる眼差しの温かさが新鮮だった。ヘンソンと同じハンドボール部員であり、長きにわたる彼女の親友として惣菜店も手伝うヨンジュに扮するのはイ・ボンリョン。はっきり物を言いながらも優しさに満ちた“頼れる姉御”キャラは今回も健在で、ヘンソンに家族の在り方を示してくれる。さらに、穏やかな女性を演じることが多いキム・ソニョンの、がらりと変わった演技にも驚かされる。ヘイを敵視するクラスメートのスヒ(カン・ナオン)の母で、受験情報のインフルエンサーとして私教育界隈を裏で牛耳るボス「スア賢母」の陰湿さがリアルだ。

同じくハンドボール選手で大親友のヨンジュ(イ・ボンリョン)
同じくハンドボール選手で大親友のヨンジュ(イ・ボンリョン)[c]tvN


人生と恋愛は年を重ねるほど難しい。「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」が示す幸福の秘訣

「人生で正解を求めなくていい」そんなメッセージに勇気づけられる
「人生で正解を求めなくていい」そんなメッセージに勇気づけられる[c]tvN

本作はストーリーが進むにつれて恋愛模様がメインになっており、そこでは彼らのより繊細な感情の交感が垣間見える。たとえば、自身の暗い過去が暴き立てられたチヨルが、鬱屈を紛らわすために釣りに出かけると、キャンプで同じ場所を訪れていたヘンソン一家に出くわす第6話。相手との間に壁を作るチヨルは「数学は明快に答えがあるが、人生は公式も法則もなく、間違うことが多くてそのたびに委縮する」と話し、ヘンソンは「間違えるほどに答えに近づく。ハンドボールで投げるたびに色々な角度を試すように、だんだん確率を上げていけばいい」と返す。二人ともまだ好意は自覚していないが、お互いが持つ違う要素を理解し、尊重するきっかけとなる重要なエピソードであると同時に、「人生には正しい答えはなく、いくつかの模範的な答えがある」というタイトル通り、選択肢と解答を多く持つことの幸福を示唆してくれているのだ。

いよいよ最終話が配信される「イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜」。ハイライトに向けてサスペンス要素も急加速し、ますます見逃せない。

文/荒井 南

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