笑える?笑えない…?人間の本音を抉りだす『逆転のトライアングル』でのヒエラルキーの崩壊

コラム

笑える?笑えない…?人間の本音を抉りだす『逆転のトライアングル』でのヒエラルキーの崩壊

フレンチアルプスで起きたこと』(14)ではスキーリゾートを楽しむ一見仲のいい家族が、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(17)では展示物のテーマとは裏腹な行動をとってしまうエリート・キュレーターが、それぞれ予期せぬ出来事に遭遇して現実を目の当たりにする姿を描いたリューベン・オストルンド監督。その最新作『逆転のトライアングル』(公開中)もまた、階級社会の上下が突然ひっくり返ることで露わになる皮肉な現実を描いている。

でも、過去作に比べてエンタメ性が濃厚な分、漂うアイロニーはより強烈で、昨年のカンヌ国際映画祭の審査委員たちは『ザ・スクエア~』に続き2作連続でオストルンド監督作品に最高賞のパルム・ドールを授けた。また来たる第95回アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚本賞の3部門で候補入りしている。なぜ、この映画がそれほど人々を魅了するのか?

2作連続でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞したリューベン・オストルンド
2作連続でカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞したリューベン・オストルンド写真:SPLASH/アフロ

クルーズを満喫するセレブたちに襲いかかるリューベン・オストルンドの牙

女性のほうが男性の何倍ものギャラを稼ぐ女性上位のモデル業界に身を置くカップル、ヤヤ(チャールビ・ディーン)とカール(ハリス・ディキンソン)が、食事代をどっちが払うかで揉めたあと、招待されたのは豪華客船クルーズ。そこには、有機肥料で一財産築いたと豪語するロシアの新興財閥や、会社を売却して腐るほど金があると自慢するハイテク億万長者、そして、家族で武器を製造しているという見た目品のいい老夫婦たちが乗り合わせている。

トップモデルでインフルエンサーでもあるヤヤは、男性の何倍ものギャラを稼いでいる(『逆転のトライアングル』)
トップモデルでインフルエンサーでもあるヤヤは、男性の何倍ものギャラを稼いでいる(『逆転のトライアングル』)Fredrik Wenzel [c] Plattform Produktion

彼らはクルーザーのスタッフに無理難題を押し付け、言うことを聞かないとしつこくクレームをつけている。そんな状況を赤裸々にスケッチしたあと、オストルンドが第一の牙を剥く。やがて海は大荒れになり、船内には汚物が溢れ、ゲストの多くが体調に異変をきたすのだ。しかし、第二の牙はさらに鋭い。想定外の出来事によってクルーザーが転覆し、運よく命拾いして無人島に流れ着いた乗客たちは、そこで、船上では階級ピラミッドの下に位置していた清掃婦、アビゲイル(ドリー・デ・レオン)から、正しく逆転のしっぺ返しを食うのだ。


豪華客船のクルーズに招待されたヤヤとカール(『逆転のトライアングル』)
豪華客船のクルーズに招待されたヤヤとカール(『逆転のトライアングル』)Fredrik Wenzel [c] Plattform Produktion

関連作品