その人生が映画のよう。30年ぶりにドラマティックなカムバックを遂げたキー・ホイ・クァンが明かす俳優人生

インタビュー

その人生が映画のよう。30年ぶりにドラマティックなカムバックを遂げたキー・ホイ・クァンが明かす俳優人生

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の強烈な登場人物たちの中で、ひとりだけ首尾一貫変貌を遂げないキャラクターが、キー・ホイ・クァンが演じたウェイモンド・ワンである。ロサンゼルス近郊でランドリーサービスを営むワン家、ウェイモンドとエヴリン(ミシェル・ヨー)は若いころに故郷の中国を離れ、成功を夢見て新天地アメリカにやってきた。小さいながらも地元民に重宝されるランドリー店を営み、Z世代の娘ジョイ(ステファニー・スー)と、頑固者のゴンゴン(ジェームズ・ホン、ゴンゴンは中国語で義理の父)と暮らす“人生”を、ウェイモンドは、優しさで支え続けている。日本公開直前、映画賞で多忙のなか、キー・ホイ・クァンがオンラインインタビューに応じてくれた。

「長い間、子ども時代の栄光を超えることができませんでした」

公開中の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
公開中の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』[c]EVERETT/AFLO

劇中でもカンフーを操る身体能力と変幻自在で憎めない姿が注目を集めたが、キー・ホイ・クァンが歩んできた歴史が紐解かれると、ハリウッドはこの“カムバック劇”に夢中になった。1971年にベトナム系中国人一家に生まれ、1979年にアメリカに移住。一家離散状態でベトナムを離れ難民キャンプに入った経験を、ポッドキャストで涙ながらに語っている。渡米後に通学する小学校で行われた『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(84)の子役オーディションで抜擢され、その後『グーニーズ』(85)に出演する人気子役となった。ちなみに『グーニーズ』の共演者の一人、ジェフ・コーエン(チャンク役)はのちにエンターテイメント弁護士となり、キー・ホイ・クァンの今作における出演交渉契約を担当している。

今年1月、映画賞レース序盤に行われた第80回ゴールデン・グローブ賞映画部門助演男優賞を受賞した際のスピーチで、会場にいるスティーヴン・スピルバーグ監督に対し、「私はルーツを忘れるなと育てられました。最初のチャンスをくれた人への恩を忘れてはいけない、と。スティーヴン、どうもありがとう!」と謝辞を贈っている。彼の映画出演は移民一家の運命を変え、収入を得たキー・ホイ・クァンは、13歳にして住宅ローンを背負うことになった。だが、ハリウッドにおける人種の壁は厚く、その後は苦汁をなめる状況が続き、南カリフォルニア大学で映画を学んだ後は制作の裏方で働くようになる。

ハリソン・フォードと共演した『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』で一躍有名子役に
ハリソン・フォードと共演した『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』で一躍有名子役に[c]EVERETT/AFLO

「この仕事を始めた時、私は12歳でした。1980年代当時、アジア系は非常に疎外された存在で、ステレオタイプなキャスティングばかりでした。実際、スティーヴン(・スピルバーグ)とジョージ(・ルーカス)は、ハリウッドの大作映画にアジア系俳優を配した最初の映画監督でした。スティーヴンは1回だけでなく、2回も起用してくれたのです。それでも、もちろん、歳を重ねるにつれてアジア人の見た目でハリウッド俳優になるのはとても難しいことだと気づきました。でも時代が変わり、いまの風景はまったく異なるものになりました。この変化に貢献してくれたすべての人々に、本当に感謝しています」。


時代の変化を促したのは、2018年の『クレイジー・リッチ!』。妻役を演じたミシェル・ヨーも出演している。「この数年での変化の成果を見れば、彼らがハリウッドに対しどれだけ懸命に働きかけたのかがわかるでしょう。もしも『クレイジー・リッチ!』が作られていなくて、状況が変わっていなかったら『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』もなかったし、私のカムバックもあり得なかった。でも、今なら楽観的に将来への希望を持つことができます」。

ミシェル・ヨーとキー・ホイ・クァン
ミシェル・ヨーとキー・ホイ・クァン[c]EVERETT/AFLO

ゴールデン・グローブ賞の受賞スピーチでは、こう続けている。「『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』で抜擢され、とても幸運でした。歳をとるにつれて、あれは幸運だっただけだと思うようになりました。それから長い間、子ども時代の栄光を超えることができませんでした。その時の子どもを覚えていた二人の監督が30年後に私のもとを訪れ、再びチャンスをくれました。それから起きたことはすべて、信じ難いようなことばかりです」。ダニエル・クワンとダニエル・シャイナートの二人組によるダニエルズに対し、「ダニエルズは本当に才能に恵まれた、天才コンビだと思います。もしも次作に誘われたら?彼らのためならなんでもしますよ!彼らが次にどんな映画を撮るのか、楽しみで仕方ないです。彼らは私に2度目のチャンスというすばらしい贈り物を与えてくれただけでなく、すばらしい撮影環境で、今後さらに上を目指すために努力しなくては、という気づきを与えてくれました」と、賞賛を惜しまない。

関連作品