その人生が映画のよう。30年ぶりにドラマティックなカムバックを遂げたキー・ホイ・クァンが明かす俳優人生 - 2ページ目|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
その人生が映画のよう。30年ぶりにドラマティックなカムバックを遂げたキー・ホイ・クァンが明かす俳優人生

インタビュー

その人生が映画のよう。30年ぶりにドラマティックなカムバックを遂げたキー・ホイ・クァンが明かす俳優人生

「キャメロンから『自分の人生を楽しむことですよ』と言われました」

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の北米公開は2022年3月。それから1年あまりの日々はどんな旅路だったのだろうか。キー・ホイ・クァンは、「この作品を誇りに思う1年でした。実際のところ、この1年間は私にとって非常に感情的なものでした。この映画を応援してくれるファンの方々の反応や、私が再び俳優として復帰することを応援してくれる方々の反応を見ていると、本当に信じられないほどありがたい気持ちになるからです。正直なところ、たった38日間の撮影で作った小さなこの映画が、ここまで注目を浴びるとは思ってもいませんでした。特に、映画賞を受賞したり、評価を受けたりするなんて」と告白する。

キー・ホイ・クァンにとって今作は30年ぶりの俳優復帰作で、ダニエルズによる奇想天外な脚本とアジア系俳優のレジェンドであるミシェル・ヨーとの共演に胸を膨らませたが、映画が公開されたあとの観客との交流が特別な作品に変えていった。「私たちが作った小さな映画が観客の心にどれだけ響いたか、彼らの人生にどれだけ深い影響を与えたか、それらを聞くだけで胸が熱くなりました。それが、この映画から生まれた最もすばらしいことのひとつです。ファンの方々と直接お会いして、彼らの話を聞くことができたこと。彼らが話してくれるエピソードのひとつひとつが愛おしいです」。

ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート監督
ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート監督[c]EVERETT/AFLO

彼がインタビューで話すこと、受賞スピーチで述べる言葉は、同じような思いを抱える多くの人々に響いていった。彼の人生そのものが、映画の中で「ありえたかもしれない人生、選択していたかもしれない未来」のマルチバースにジャンプするエヴリン(ミシェル・ヨー)が、闘いの末に辿り着く境地と重なっていく。そして、「またカメラの前に立ち、大好きな仕事をすることができるなんて思ってもいませんでした。これは特別に与えられたもので、当たり前にあるものだと思ってはいけません」と語り、選択してしまった人生に後悔を抱える人々にこうアドバイスする。

「夢や希望があれば、『あきらめずに続けること』です。たとえ、長い時間がかかることがあっても、夢は叶うものです。私の場合、実現するまでに何十年もかかりましたが。そして、もう一つこの映画に感謝していることは、自分の体験談を素直に話す勇気を与えられたことです。素直に話してみたら、人々が『あなたの苦労がよくわかるよ』と共感を伝えてくれました。そして、悩んでいる人たちには、『あなたは一人ではない』と気づいてほしい。私たちは誰も、それぞれの苦悩を抱えているのです。妻はずっと私を信じてくれました。自分を本当に信じてくれる人たちに囲まれていてほしいと思います。だから、頑張りましょう!」と、エールを贈る。

恩人スピルバーグ監督との2ショット。キー・ホイ・クァンが山あり谷ありの俳優人生を語る
恩人スピルバーグ監督との2ショット。キー・ホイ・クァンが山あり谷ありの俳優人生を語る[c]EVERETT/AFLO


同じように、キー・ホイ・クァンも映画賞などで会った人々からインスピレーションを得ていると言う。『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』のジェームズ・キャメロンからは、こうアドバイスされたそうだ。「『自分の人生を楽しむことですよ』と言われました。『あまり深刻に考えず、すべてを受け入れること』と。それがいま、すばらしいアドバイスとして私の中に残っています。この1年間は、信じられないような旅でした。自分の名前の接続詞に“オスカーノミネート俳優”と入るなんて、誰が想像したでしょう。ジェームズのアドバイス通り、この瞬間を楽しみ、この場にいられることに感謝しています」。

【写真を見る】キー・ホイ・クァンが小道具として身につけていたウエストポーチは約650万円で落札された
【写真を見る】キー・ホイ・クァンが小道具として身につけていたウエストポーチは約650万円で落札された[c]EVERETT/AFLO

映画の撮影から3年あまり、公開から1年。長い“エブエブ・ファミリー”との旅路ももうすぐ終わる。撮影終了後に、キー・ホイ・クァンはウェイモンドがアクションシーンでぶんぶん振り回していたウエストポーチを記念に持ち帰ったそうだ。「数週間、アクションチームと共に練習をしていた際に、このウエストポーチを家に持ち帰って練習しました。家でポーチを振り回していたら、物にぶつけてしまったり、コップを吹き飛ばしてしまったりして、妻にこっぴどく叱られました。『裏庭でやってちょうだい』、と(笑)。そういったすばらしい思い出がたくさんつまった小道具は、この最高な映画の記念になりました」。

彼が保持したのは練習用で、実際に撮影に使われたウェイモンドのウエストポーチ(ファニーパック)は、A24が行ったチャリティオークションにかけられ、約48000ドル(約650万円)で落札。アジア系住民のメンタルヘルスケアを啓蒙する組織に寄付されている。

アカデミー賞にも多数ノミネートされている本作。結果が楽しみ!
アカデミー賞にも多数ノミネートされている本作。結果が楽しみ![c]EVERETT/AFLO

3月12日には第95回アカデミー賞授賞式が行われる。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の10部門11ノミネートのうち、キー・ホイ・クァンが候補となった助演男優賞は、例年だと授賞式の最初に発表される。「オスカーが終着地点だとは思っていません。私たちはこの映画によって永遠に絆を深めていくことになるでしょう。私たちは生涯家族のような存在です。長いこと彼女の出演映画を観てインスパイアされていたミシェル・ヨーを友達や家族と呼べるようになったことを、とても幸運に思っています。そして、彼女は永遠に私のエヴリンであり続けるでしょう。オスカーでなにが起きるかはわかりませんが、私たちの映画にこれまでみなさんが与えてくれた評価に感謝しかありません。でも、願わくば…この旅が終わってほしくはないです。この先も、ずっと続いていってほしいですね」

取材・文/平井伊都子

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