大友克洋がサプライズ登場!りんたろう監督新作参加は「山中貞雄でりん監督なんで、やるしかないでしょう」
新潟市で開催中の第1回新潟国際アニメーション映画祭。3月20日にりんたろう監督最新作の『山中貞雄に捧げる漫画映画「鼠小僧次郎吉」』が新潟市中央区の新潟市民プラザでワールドプレミア上映が行われた。りん監督、企画の丸山正雄、声優の小山茉美、シークレットゲストとしてキャラクターデザインを手掛けた大友克洋らが登壇した。
本作は、山中貞雄監督の『鼠小僧次郎吉 江戸の巻』(33)をもとに制作されたサイレントアニメーション。日本映画の黎明期に活躍しながら、28歳で夭折した山中監督の作品は、現在『丹下左膳餘話 百萬両の壺』(35)、『河内山宗俊』(36)、『人情紙風船』(37)の3本しか現存しておらず、本作は生前に遺した脚本から制作されている。
りん監督は、20代のころ手掛けたテレビアニメ「佐武と市捕物控」の監修であった時代劇の名匠、松田定次監督から「若かりし時代劇の監督がいる」と聞いて山中監督を知ったという。その後、たまたま名画座で『人情紙風船』を観たとのことで、「悲壮な映画なんだけど、最後に紙風船が流れていく時に凄い監督だなと思った」と、同じ監督として衝撃を受けたという。
本作はりん監督にとっても久々の新作となり、「浦島りんたろうと呼んでください」と会場を沸かせつつも、制作にあたっては「日本のアニメーションのすべてが変わって、違ったテイストになったと思いました」と心情を吐露。「『鬼滅の刃』の続編は作れない。あれをやれと言われたら、僕はひっくり返ってしまいますから(笑)。自分のスタイルでどうせやるなら、日本映画の大本に戻っちゃおうか。それでなんとなく(丸山と)2人で話して山中貞雄となって、どうやって作ろうかと手探りの状態で進めた」と話し、「とにかく絵コンテまでは作る」と思って本作の制作を始めたという。
サイレント映画として本作を制作した背景について、りん監督は「いまの若い人には馴染みがないのかもしれないけれど、アルフレッド・ヒッチコックは『映画の一番の宝物はサイレント」だと言っている。僕もこの時期の監督がやってきたことが、ずっと進化してきたのだと思う。実はアニメだからといって、セリフをバラバラと話すのが苦手で、セリフがなくても絵で表現できるのがアニメーションの世界だと思っている。僕のなかでそういう方向が一つの形になり、サイレントにしようと決めた」と、長年培ってきたことが本作に繋がったと語った。
丸山は、「『人情紙風船』が山中貞雄の遺作ではチトサビシイ」という言葉が好きだそうで、「山中貞雄をいろんな意味で、日本の文化の大事なものとして、僕らの心のなかにちゃんと残しておきたいという想いを皆さんにわかってもらえるとうれしいです。後半は多少アレンジしていますが、基本的には山中貞雄のシナリオどおりにやる。そのなかで、川島雄三監督の『幕末太陽傳』など、観てみると隠し玉がたくさん入っている。日本映画を研究している方にはぜひ観て欲しい」と、本作に込めた想いを語った。
活動弁士役として、本作に登場する十数のキャラクターを演じた小山は、「通常のアニメではセリフを取ったあとに音楽を付けるのですが、先に音楽を作ってもらって、それとの掛け合いのセリフという形で行いました」と、本作ならではの収録方法を披露。これに対してりん監督は、「実現できなかったが、本当はここで弁士と音楽を生演奏することを目論んでいた」とのことで、今後の上映で実現させたいとアピールした。
そしてサプライズゲストとして、本作の「撮影パート」のキャラクターデザインを担当した大友克洋が登壇。りん監督から依頼を受けた大友は「山中貞雄で、りん監督なんで、やるしかないでしょう」と即決したという。「ただ、資料や写真がほんとになくて大変だった。特にミッチェルというカメラを調べるのは苦労しました。山中監督の写真も何枚かしかなかった」と、デザインするうえでの苦労を振り返った。
大友は、山中監督の作品で『丹下左膳餘話 百萬両の壺』が一番好きだと話し、「山中貞雄のセンスは普通じゃない感じがしますね。無声映画の時代から、時代劇は型が決まっていたのに『百万両の壺』だけおかしいですよね。ギャグというか外した感じにセンスを感じます。もしいまも生きていたら、どんな映画を撮っていたのかを考えます」と、りん監督に「一番のシネフィル」と称される大友の視点から作品を語った。
トークイベントには、制作にかかわった仏「Miyu Productions」のスタッフや、アニメーションの実制作を担当したスタッフも登壇し、りん監督が紹介を行った。最後にりん監督は、「すごく大変な作品でしたが、充実した日々でした。本当にありがとうございました」とお礼を述べ、イベントを締めくくった。
第1回新潟国際アニメーション映画祭は、3月22日(水)まで新潟市民プラザを中心に、クロスパル新潟、T・ジョイ新潟万代、シネウインドの4拠点を会場として開催。最終日には、コンペティション部門授賞式がりゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)にて行われる。
取材・文/編集部
日程:3月17日~22日(水)
場所:新潟市民プラザ、クロスパル新潟、T・ジョイ新潟万代、シネウインドほか
URL:https://niigata-iaff.net/