押井守が語る、アニメ業界の課題とヒット作の必要性「『ヤマト』や『ガンダム』がなければ、私は監督になっていない」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
押井守が語る、アニメ業界の課題とヒット作の必要性「『ヤマト』や『ガンダム』がなければ、私は監督になっていない」

インタビュー

押井守が語る、アニメ業界の課題とヒット作の必要性「『ヤマト』や『ガンダム』がなければ、私は監督になっていない」

長編アニメーション映画にスポットを当てた映画祭「新潟国際アニメーション映画祭」の記念すべき第1回が、いよいよ3月17日(金)に開幕。世界各国から集まったアニメーションがグランプリを競うほか、国内外のアニメファンやアニメ制作者が集った“交流の場”となることも期待されている。審査委員長を務めるのは、『機動警察パトレイバー the Movie』(89)や『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(95)などで世界的に支持を集める押井守。そこでMOVIE WALKER PRESSでは押井監督にインタビューを敢行。いまのアニメ業界が抱える課題や、人の出会いがもたらす刺激について語ってもらった。

長編アニメーション映画にスポットを当てた「新潟国際アニメーション映画祭」
長編アニメーション映画にスポットを当てた「新潟国際アニメーション映画祭」

「エンタメ作品をちゃんと評価することも必要」

新潟国際アニメーション映画祭のコンペティション部門の応募条件は、制作手法は問わず「40分以上のアニメーション作品」であること。第1回では世界15か国からのエントリーを受け、選考委員による厳選な審査を実施。1人の少女とヴァンパイアが“楽園”を求めて旅をする『劇場版「ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」』(日本)や、失われた記憶を求めて奇妙な世界を巡る『カムサ – 忘却の井戸』(アルジェリア)など10作品の参加が決定した。

Netflixでアニメシリーズとして配信中の、牧原亮太郎監督『劇場版「ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」』
Netflixでアニメシリーズとして配信中の、牧原亮太郎監督『劇場版「ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン」』[c]WIT STUDIO/Production I.G

押井監督は、「アート系や短編映画のアニメーションを対象にしたコンペティションは、世界中でいっぱいやっている。でも長編を対象にしたコンペティションは、少なくとも日本では聞いたことがないですよね。人気投票で決まる、アニメージュ主催の『アニメグランプリ』のようなものはあるけれど、専門家が評価するコンテストは一度もないんじゃないかな」と同映画祭の新たな取り組みに、意義を感じているとコメント。「長編であるということは、イコール、商業映画であり、エンタメ作品になるわけです。長編をつくるためにはお金がかかるので、自動的にお金を稼ぐことが必要になりますから。つまり長編映画のコンペティションでは、『ちゃんとエンタメしているか?』ということも問われることになる。エンタメとしてつくられたものを評価するということは、僕らのアニメ業界ではおそらくこれまでやってきていなかったこと」だという。

コンペティション作品以外にも、りんたろう監督14年ぶりの新作などが上映される
コンペティション作品以外にも、りんたろう監督14年ぶりの新作などが上映される[c]山中貞雄 / 「鼠小僧次郎吉」製作委員会

さらに「それはなぜかというと、人の作品を評価するようなことを基本的にやらない、嫌がるという、特殊な世界だったから。でも特に若い人たちには、ダメならダメで、なにがダメなのかを言ってくれる人も必要」とこれまでの慣習を打破したいと語り、「世界のアニメフェスでは、アート系や短編のものが正統派だと言われて、僕らがつくるようなアニメはお呼びがかからないわけだよね(笑)。でもエンタメとしてつくられたものを評価していくことや、プロがプロの技を評価していくことは、とても大事なことだと思う」と力を込める。

「『ヤマト』や『ガンダム』がなければ、私は監督になっていない」

現在のアニメーション文化は、“アート”と“商業”に分断されていると語った押井監督だが、“商業”のなかでも二極化が起きていると述べる。2022年には『ONE PIECE FILM RED』(22)や『すずめの戸締まり』(公開中)、『THE FIRST SLAM DUNK』(公開中)といった大ヒット作が生まれているが、一方では幅広い層に届けられていない作品もたくさんあるという。

意欲作に目を向けていきたいと語る押井監督
意欲作に目を向けていきたいと語る押井監督


押井監督は「定番のシリーズものや話題作、大作系の作品ももちろんいいんだけれど、できれば独自の企画で『どうだ!』と勝負をかけたような作品にスポットを当てたい」と切りだす。「近年だと原(恵一)くんの『かがみの孤城』や、片渕(須直)くんの『この世界の片隅に』のように、『気合いを入れて頑張ったな』という作品が年に何本かあるんですよ。でもなかなか注目を集めにくい場合もあるし、話題にならないうちに公開が終わってしまう作品もある」と現状を吐露しながら、同映画祭ではアニメ業界活性化のためにもきちんと意欲作に目を向けていきたいと語る。

続けて「いっぱい稼いだ映画と、いい映画は、違うわけじゃない?もちろんエンタメの世界では、『いっぱい稼いだ映画が偉い』というのは正しくもある。ヒット作がなければ、誰も意欲作を作れなくなりますから。僕みたいな監督が曲がりなりにも映画を撮ってこられたのも、そういうことです。『(宇宙戦艦)ヤマト』や『(機動戦士)ガンダム』がなければ、私は監督になっていないからね。ヒット作があるから、映画にお金を出してくれる人がいるわけで。誰かが大ヒットを生みだしてくれなければ困る。私が一番、困る」と笑い、「全体のことを考えれば、ヒット作があるということはとても大事なことなんです」と業界全体の盛り上がりに期待を寄せる。

■第1回新潟国際アニメーション映画祭
日程:3月17日(金)~22日(水)
場所:新潟市民プラザ、クロスパル新潟、T・ジョイ新潟万代、シネウインドほか
URL:https://niigata-iaff.net/

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