シンプルに圧倒される演技『ザ・ホエール』、スリルと情感がみなぎる『ノック 終末の訪問者』など週末観るならこの3本!

コラム

シンプルに圧倒される演技『ザ・ホエール』、スリルと情感がみなぎる『ノック 終末の訪問者』など週末観るならこの3本!

週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!
週末に観てほしい映像作品3本を、MOVIE WALKER PRESSに携わる映画ライター陣が(独断と偏見で)紹介します!

MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、家族との壊れた絆を取り戻そうと奮闘する男の最期の5日間を描くヒューマンドラマ、M.ナイト・シャマランが、終焉に向かう世界の運命を委ねられた家族の奔走を映すスリラー、終活に向かうマダムと、運転手のパリ横断が2人の人生を変えていくヒューマンドラマの、心を動かす3本。

自分の人生を重ねてしまう…『ザ・ホエール』(公開中)

【写真を見る】繊細な思春期を見事に体現したのは「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のマックス役でもおなじみのセイディー・シンク(『ザ・ホエール』)
【写真を見る】繊細な思春期を見事に体現したのは「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のマックス役でもおなじみのセイディー・シンク(『ザ・ホエール』)[c]2022 Palouse Rights LLC. All Rights Reserved.

その演技を目にすれば、誰もがシンプルに圧倒され、感動せざるをえない…。本作でアカデミー賞主演男優賞に輝いたブレンダン・フレイザーは、俳優の仕事のそんな“究極”を達成した。主人公のチャーリーを演じるにあたり、特殊メイクと40kgものファットスーツ、つまり重りを着けたが、その説得力ある動きは、自らの肉体で演じた『ギルバート・グレイプ』(94)のお母さんと変わらない。終盤のあるシーンでは、肉体そのものがひとつの芸術になったような錯覚をおぼえる。

ポルノ動画に溺れ、ジャンクフードを食べまくり、教授としてのオンライン授業では絶対に容姿を明かさない。チャーリーの日常描写はひたすら痛々しいし、再会した娘や、看護師、訪問者とのやりとりも強烈で辛辣だったりする。それなのに、全体に温かみ、優しさ、人間味が濃厚に漂っている不思議な感覚。ダーレン・アロノフスキー監督は基本的に極端なシチュエーションが得意だが、『レスラー』(09)のように共感度が高い作品と、『ブラック・スワン』(11)のように共感させない面白さの作品に分かれる。本作は明らかに前者。チャーリーが発する後悔の言葉に、観る人それぞれが自分の人生を重ねてしまうことだろう。(映画ライター・斉藤博昭)

不条理なシチュエーションの密室劇…『ノック 終末の訪問者』(公開中)

 謎の訪問者に究極の2択を迫られる『ノック 終末の訪問者』
謎の訪問者に究極の2択を迫られる『ノック 終末の訪問者』[c]2023 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

『サイン』(02)の農場、『ヴィレッジ』(15)の村、『オールド』(21)の浜辺など、限定空間を舞台にした異色のスリラーを世に送り出してきたM.ナイト・シャマラン監督の最新作は、人里離れた山小屋で繰り広げられる緊迫のドラマ。3人の家族がのどかな休日を過ごす別荘に、謎めいた男女4人が現れたことから、世界の終末をめぐる予測不能のストーリーが展開していく。

70億人の人類を救うため、一家にある重大な決断を迫る4人組は正気なのか、それとも妄想に囚われているのか。そんな不条理なシチュエーションの密室劇を、怒濤のディザスター映画へと変貌させていくシャマランの巧みな語り口に引き込まれる。家族愛や運命、選択といったテーマをはらみ、極限のスリルと情感がみなぎる映像世界。その想像を絶する結末を、ぜひ目撃してほしい。(映画ライター・高橋諭治)


説得力ある台詞の数々に頭が下がる思い…『パリタクシー』(公開中)

タクシー運転手が、終活に向かうマダムと共にパリ横断を行うことになる『パリタクシー』
タクシー運転手が、終活に向かうマダムと共にパリ横断を行うことになる『パリタクシー』[c] 2022 - UNE HIRONDELLE PRODUCTIONS, PATHE FILMS, ARTÉMIS PRODUCTIONS, TF1 FILMS PRODUCTION

ストレスフルな毎日を送るタクシー運転手が乗せた客は介護施設に向かう92歳のマダムだった。パリでの最後の時間を楽しもうと強面のタクシー運転手に「あそこも行きたい」、「ここも寄って」と無邪気かつ毅然として要求するマドレーヌ役に扮したのは最もキャリアの長いシャンソン歌手であるリーヌ・ルノー。92歳にしては若々しい印象だが、実は本人も1928年生まれと同世代。実際に彼女と親交のあるコメディアン、ダニー・ブーンがタクシー運転手役を務め、息のあったリラックスしたやりとりが心地よい。

朝昼夜で違った表情を見せるパリの名所をドライブしながら、まだ女性の権利が認められていなかったマドレーヌの青春時代へとタイムスリップ。一つまた一つとマドレーヌの過去が明らかになるたび、人生の奇跡を感じずにはいられない。「微笑むたびに人は若返る」。彼女と同じ時代を生きてきたリーヌ・ルノーだからこそ言える説得力ある台詞の数々に頭が下がる思いだ。(映画ライター・高山亜紀)

映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。

構成/サンクレイオ翼

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