【推しの子】異例の“第1話90分拡大放送”にはワケがある!瞳に星を宿したアイの求心力

コラム

【推しの子】異例の“第1話90分拡大放送”にはワケがある!瞳に星を宿したアイの求心力

本日4月12日より放送がスタートするアニメ【推しの子】、第1話は90分拡大版で、放送に先駆けて3月17日より『推しの子 Mother and Children』が全国の映画館にて先行上映されたことも話題に。テレビアニメの第1話や最終回を60分拡大枠で放送することはたまにあるが、第1話90分拡大枠は異例のこと。本稿では【推しの子】第1話を90分拡大版で放送する必然性を考察すると共に、第1話の魅力について解説する。

※本記事は、第1話のストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

コミックス第1巻をまるごとアニメ化した第1話

テレビアニメ【推しの子】は、2020年より「週刊ヤングジャンプ」(集英社)にて連載中の漫画が原作。「かぐや様は告らせたい」シリーズの原作者である赤坂アカが原作を、「クズの本懐」の横槍メンゴが作画を担当しており、人気作を手掛ける2人のタッグとあって早くから話題を集めた。「次にくるマンガ大賞2021」コミックス部門1位などに輝き、現在コミックスは11巻までが発売されている。第1話を90分拡大版で放送するのは非常に挑戦的なことだが、それだけの人気と話題性があればこそ。そして、そうする必然性もしっかりとある。

【画像を見る】初回90分で描かれる、アイドルのアイが抱える秘密とは?
【画像を見る】初回90分で描かれる、アイドルのアイが抱える秘密とは?[c]赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

【推しの子】という題名が示す通り、本作の主人公はあくまでも"子"である。その"子"が、本格的に活動を開始するのはコミックス第2巻以降であり、コミックス第1巻はいわば前日譚で、この物語が非常に完成されたものになっている。最後まで読んだら続きが気にならずにはいられないのだが、これ単体でも成立するようなクオリティを保っているのだ。もしも実写版で映画化するなら、ちょうどこの第1巻で区切り、第2弾、第3弾への布石とするだろう。テレビアニメ【推しの子】の第1話はまさに、このコミックス第1巻をまるごとアニメ化したものになっている。

30分では描ききれない、アイの激動の人生

アニメ第1話は、人気絶頂のアイドルグループ“B小町”の絶対的エースで不動のセンターである16歳のアイ(声:高橋李依)、つまり"推し"の物語になっている。アイがどのようにして人気アイドルになったのか、彼女がアイドルを志した経緯や出自、謎めいた交友関係などを交えながら、アイの激動の生涯が描かれていく。アイドルのアイと産婦人科医のゴロー(声:伊東健人)の出会いに始まり、波のように何度も押し寄せてくる衝撃の展開。スピーディに進む物語は、一時も目を離すことができない。そして最後に訪れる、涙。その涙を胸に、第2話から推しの子たちが本格的に動きだす。

アイドルグループ“B小町”で絶対的エースを務めるアイ
アイドルグループ“B小町”で絶対的エースを務めるアイ[c]赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

”生まれ変わり”という転生モノ的な導入もあれば、物語のおもな舞台となるアイドルシーンや芸能界の裏側までがしっかりと描写され、そこにミステリーの要素もプラスされるなど、第1話から大ボリュームの情報量がなだれ込んでくる。通常の30分枠には到底収まるわけもなく、かと言ってどれも今後につながる重要シーンばかりであり、下手に削ることもままならない。まるごとしっかり見てもらう必要があり、ならば90分拡大枠にしようという制作陣の意図は明快だ。

「AnimeJapan 2023」のステージで「(初回90分に決めた制作陣は)理解(わか)っている」と評したアイ役の高橋李依
「AnimeJapan 2023」のステージで「(初回90分に決めた制作陣は)理解(わか)っている」と評したアイ役の高橋李依

アイが魅せるライブに、作品の世界観を表現したテーマソング

また、本作の主人公の一人であるアイが、非常に魅力的に描かれているのも第1話の見どころだろう。アイがセンターを務めるアイドルグループ、B小町のライブシーンも描かれており、挿入歌も数曲登場する。キラキラとした汗を飛び散らせながら歌い踊る、躍動的なライブシーンは臨場感たっぷりで、アイがいかにカリスマ的な魅力を放つアイドルなのかが印象づけられる。挿入歌は、アニソン界隈では有名なアーティストが手掛けるなど力が入っており、アイを演じる高橋李依が歌うアイドルソングはファンならずとも必聴だ。また、カリスマアイドルゆえの苦悩やステージの上とは異なる素顔も描かれていて、アイが人として求めた幸せのあり方や、アイが子どもたちに最後の言葉を贈るシーンは実に涙を誘う。

アイのライブに参戦し、キレのあるオタ芸を披露する子どもたち
アイのライブに参戦し、キレのあるオタ芸を披露する子どもたち[c]赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

また、YOASOBIによるオープニングテーマ「アイドル」も必聴。YOASOBIはこれまでにも、「BEASTARS ビースターズ」や「機動戦士ガンダム 水星の魔女」といったアニメのテーマソングを手掛けて話題を集めてきた。コンポーザーのAyaseはもともと原作のファンだったそうで、本作をイメージして楽曲を作ったと、アニメ公式サイトでコメントしている。今回のオープニングテーマ「アイドル」は、ネット発の現代的なポップスをベースにしながら、ボカロ+アイドルの要素が加わり、さらにボーカルのikuraがラップも効かせるといった、YOASOBIの新機軸と呼べる楽曲だ。アイドルのステージを表現したような明るくキャッチーなメロディに対して、アイドルシーンの闇を描いたようなダウナー系のラップという、実にカオスな取り合わせに思われるが、これこそが【推しの子】という作品を如実に表していると言えるだろう。

オープニングテーマ「アイドル」は、"小説を音楽にするユニット"YOASOBIが、原作者の赤坂アカが描き下ろした小説を基に書き下ろした
オープニングテーマ「アイドル」は、"小説を音楽にするユニット"YOASOBIが、原作者の赤坂アカが描き下ろした小説を基に書き下ろした

そして物語の主役は、推しの"子"へ


この【推しの子】という作品は、アイドルのアイも主人公ではあるが、全編で大々的に登場するわけではない。冒頭に書いた通り、主人公は推しの"子"であるが、しかし子どもたちの行動原理の中核には常にアイの存在がある。アイを語らずして【推しの子】は語れない。そのためのアイを主人公にした、第1話90分拡大枠というわけだ。アイドルとしての一生を捧げたアイの儚い人生のなかに、【推しの子】の物語の魅力がすべて詰まっている。

第2話以降の物語は、成長したアクアやルビーらが担っていく
第2話以降の物語は、成長したアクアやルビーらが担っていく[c]赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

文/榑林史章

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