11度も映像化された「犬神家の一族」の魅力とは?市川崑・石坂浩二版から、金田一耕助が“登場しない”作品まで

コラム

11度も映像化された「犬神家の一族」の魅力とは?市川崑・石坂浩二版から、金田一耕助が“登場しない”作品まで

片岡千恵蔵、高倉健らが演じた、ダンディなスーツ姿の金田一像

名探偵、金田一耕助は、彼が初登場した1946年の小説「本陣殺人事件」に、小柄で絣の対の羽織と着物を着て、細い縞の袴を履き、髪はボサボサで風采が上がらない男に描かれている。だが、『三本指の男』(47)で初めて金田一を演じ、その後も5本の映画に主演した片岡千恵蔵は上下のスーツ姿で颯爽と登場し、『悪魔の手毬唄』(61)で金田一を演じた高倉健もその路線を踏襲。ほかにも岡譲二、河津清三郎池部良が映画で金田一を演じたが、いずれもダンディなスーツ姿だった。

この金田一の風貌の改変は、原作者の横溝が映画化に関して寛容な考えを持っていたこともあるが、最初の片岡千恵蔵版の監督と脚本家は、松田定次比佐芳武という同じく片岡主演による「多羅尾伴内」シリーズのコンビ。元怪盗で、いまは私立探偵の多羅尾伴内が活躍するこのシリーズの雰囲気を、「金田一耕助」シリーズにも持ち込んだのである。それだけでなく比佐は、シリーズ全6作中5作の脚本を手掛け、そのすべてで犯人を変えた。こうした大幅な改変が行われたのは、当時原作小説がリアルタイムのベストセラーだったことが要因として挙げられる。原作と同じ内容なら観に行く必要はないというのが、一つの考え方だったのだ。そのため原作通りの「金田一耕助」シリーズは、1960年代までには作られることがなかった。

11度も映像化された「犬神家」、金田一耕助が登場しない作品も?

その流れが変化したのは1975年。物語の舞台を現代に移した映画『本陣殺人事件』で中尾彬がヒッピーのような青年探偵を演じて金田一像を刷新し、1976年の『犬神家の一族』で石坂が原作の記述に近い金田一を初めて演じて、この名探偵のビジュアルイメージを決定づけた。以降の映画やテレビドラマの金田一は、その大半が石坂と市川監督が作ったイメージの影響下にあると言っていいだろう。

『犬神家』後でその流れを汲んでいない金田一は、いつも麦わら帽子を被っていて、見た目は普通のおじさん風に作っていた映画『八つ墓村』(77)の渥美清と、白いスーツにハンチング帽、丸いメガネという独創的ないでたちで現れた、1990年放送のテレビドラマ「犬神家の一族」での中井貴一くらいだろう。


石坂浩二が、30年ぶりに『犬神家』を再演して話題となった『犬神家の一族』(06)
石坂浩二が、30年ぶりに『犬神家』を再演して話題となった『犬神家の一族』(06)[c]2006「犬神家の一族」製作委員会

小説「犬神家の一族」は片岡版の『犬神家の謎 悪魔は踊る』(54)を最初に、石坂版を除くと1977年に古谷一行、前述の中井版に続いて1994年の片岡鶴太郎、2004年の稲垣吾郎、2018年の加藤シゲアキ、2020年には池松壮亮が金田一を演じる形でテレビドラマ化されており、このほかにも金田一は登場しないが原作を同じくする「蒼いけものたち」という連続ドラマが、佐々木守の脚本により1970年に放送されている。

約70年にわたって何度も映像化されてきた原作に、今回のNHK版で、吉岡秀隆の金田一がどんな新たな魅力を付け加えてくれるのか。前後編あわせて180分という、かつてない長尺で描かれるその仕上がりが楽しみでならない。

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【写真を見る】「スケキヨ、仮面を取っておやり!」不気味なマスクを被った、2023年版の佐清【特集ドラマ】「犬神家の一族」

文/金澤誠