坂本龍一と“音色”を追求したオノセイゲンが語る『戦メリ』録音秘話。109シネマズプレミアム新宿で「SAION −SR EDITION−」を聴く
「メロディーって音色と音色に含まれる初期反射音成分から生まれてくると僕は思うんです」
――音作りと言えば、メインテーマ「メリー・クリスマス ミスターローレンス」の印象的な「コーン」というパーカッションの音も相当こだわったと以前にもうかがいました。
「そうそう。あの『コーン♪』は、竹を叩いた音をイメージしたもので、アタック感を出すためにLinn(リン)ドラムのリムショットを加工したものと、Prophet-5で作った『フー』というのと、ほかにもエコー成分とかなにかを混ぜていたと思います。いろんなものを試しました。メインテーマはその音だけでもすごく時間をかけて、何度も録音しましたね」
――セイゲンさんが感じる坂本さんの音楽作品の魅力とはなんでしょう。
「いろいろあります。一言で言えば音色の良さ、センスでしょうか。メロディーって音色と音色に含まれる初期反射音成分から生まれてくると僕は思うんです。坂本さん本人は知りませんよ」
――坂本作品の音色に対する感覚の鋭さは、リスナーとしてもヒシヒシと感じる部分です。音作りを支えたセイゲンさんも、手応えを感じていらっしゃったのでは?
「僕にとっても音色は大事で、音色が良くないと楽器も触りたくないし、録音する気も起きません。当たり前のことですが、坂本さんは音色についてもダントツに長けた方です。しかもそれは近年ますます先鋭化されている気がします。
1980年代当時の話になりますが、30歳くらいのアーティストにとって、例えば40代のベテランのチーフエンジニアが相手だと録音スタジオで斬新な意見は言いにくいかもしれませんね。まだ20代でPAでもステージ周りでもバーでもなんでもおもしろがってやってた僕は、坂本さんに限らず、渡辺香津美さんにしても清水靖晃さんにしても『セイゲンこれできる?』と、なんでも頼みやすいわけです。まだ自分の音(の傾向やこだわり?)もないですから、ひょいひょいとなんでもやる便利なやつ的な姿勢が、よく声かけてもらったんだと思います。六本木ピットインには出入りしててKYLYNは見たたのに、YMOは知らない。というかラジオで流れてましたから未だ1枚もレコード持っていない。僕らはそういうこだわりがなかったから、逆に言うとなんでもOK。音作りだけじゃなく自由にいろんなやり方を試すことができたんです。おかげで僕も20代のころにいろんな試行錯誤をできました」
――ありがとうございます。では最後に、当劇場をこれから体験する読者へのメッセージをお願いします。
「映画とは、まあジャズの録音もですが、実際のライブの世界そのままではなくて記録した空間や音の時間軸を変えたりできるんですね。パラレルワールドというか新しい文脈ができる。映画の中のように、こっちではなく、映画『インターステラー』のようにあっち側の世界の体験とも言える。スマホやサブスクでは体験と呼ぶにはちょっとねえ。新宿歌舞伎町、この劇場からしかできない体験、とにかくまずはどんどんここで映画を観ることからじゃないでしょうか」
全シアターの音響を坂本龍一が監修しているこの劇場で、映画音楽としては“遺作”となった『怪物』(公開中)を観るのも最高の映画体験となることを保証するが、「109シネマズプレミアム新宿」では、館内で使用されている楽曲も、坂本龍一が手掛けている。映画の鑑賞前後にも、ラウンジで坂本龍一の“音”に浸ってほしい。
また、最晩年までを記した決定的自伝「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」も6月21日に発売されたばかり。「109シネマズプレミアム新宿」公式サイトでは、坂本龍一が映画館やミラノ座・新宿への思いを語ったコメントも読むことができるので、坂本龍一が遺した音もテキストも存分に楽しんでみてはいかがだろうか。
※本記事の取材は、2022年に行われたものです。当記事の制作中、坂本龍一さんの訃報が届きました。心よりご冥福をお祈りします。
取材・文/山本 昇