食人、人体串刺し、白骨遺体…監督が殺人容疑で逮捕された、あの問題作は“やらせ”だった?
“グリーン・インフェルノ”と呼ばれる南米アマゾンの奥地を探索中に消息を絶ったドキュメンタリー撮影隊。救助に当たった捜索隊は、食人族の村に辿り着き、そこで彼らの白骨化した遺体を発見。持ち帰った撮影済みフィルムを現像してみると、そこには想像を絶するおぞましい光景が記録されていた。
いまから40年前に日本で公開され、異例の大ヒットを記録した映画史上最大の問題作『食人族』(80)が、“4Kリマスター無修正完全版”として日本に再上陸を果たし、公開中だ。
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(99)を皮切りに「パラノーマル・アクティビティ」シリーズや「REC/レック」シリーズなど、ホラー映画を中心に世界的なムーブメントを巻き起こした“ファウンド・フッテージ・モキュメンタリー”映画のルーツであり、カルト的人気を誇るイーライ・ロス監督の『グリーン・インフェルノ』(15)の原点でもある本作。
1960年代から1970年代にかけて一世を風靡したグァルティエロ・ヤコペッティ監督に代表される“モンド映画”によって、ジャンル映画ファンから熱視線を集めたイタリア残酷映画界。モンド映画とは世界の奇習や衝撃映像などを、“やらせ”も含みながらセンセーショナルに記録した作品であり、公開当時ドキュメンタリー映画として宣伝された本作も、そのエッセンスを踏襲。しかし実際は、痛烈な文明批判が込められたフィクションである。
それでもイタリア国内では、一部から肯定的な評価を集めたものの、公開から数日ほどで上映禁止とフィルム没収の処分が下される事態に。さらにあまりにも生々しい描写のせいでスナッフ・フィルムであると思われ、メガホンをとったルッジェロ・デオダート監督は撮影のためにキャストを殺害した容疑で逮捕されてしまう。その後疑いは晴れたものの、今度は撮影のために動物を虐待したとして告訴され、世界各国でビデオ発売が中止に。トラブルやスキャンダル、訴訟、論争はいまも後を絶たない。
昨年末にデオダート監督が83歳でこの世を去り、そして日本公開からちょうど40年を迎えたいま、最先端の4Kリマスター技術で蘇った“呪われた問題作”。鮮明な映像になったことで、より一層増した地獄絵図の衝撃。直視する覚悟がある人は、ぜひ劇場で『食人族 4Kリマスター無修正完全版』を目撃してほしい。
文/久保田 和馬