カンヌ国際映画祭が幕開け!スコセッシ監督最新作や『怪物』『首』、タランティーノのマスタークラスまで大充実の12日間
5月16日、第76回カンヌ国際映画祭が開幕した。今年のオープニング作品は、ジョニー・デップがフランス国王のルイ15世を演じる『Jeanne du Barry』。世界的スターのレッドカーペット登場とあって、カンヌの街はたくさんの見物客でごった返した。パンデミックにより、2020年は公式セレクションを発表したのみ、翌年2021年は7月に開催。昨年の第75回は3年ぶりに通常通り5月に10日間の映画祭が行われたが、今年は作品数、ゲスト数ともにパンデミック以前の水準に戻るという。
映画祭開幕に先駆けて行われたインタビューでカンヌ映画祭総代表のティエリー・フレモー氏は、「今年は、5年ぶりにカンヌに戻ってくる方々がたくさんいます。私には、映画館が大復活しているように見えます。カンヌ始めとした映画祭、ストリーミング、映画スタジオ、そして映画館との間ではずっと議論が交わされています。映画界の未来について、この数年は様々な言説が飛び交いました。ですが、映画館で観る映画が戻ってきたことは確かです」と語り、特別上映(アウト・オブ・コンペティション)のマーティン・スコセッシ監督の新作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(10月6日公開)に言及した。今作はApple TV+が製作し、11月にパラマウント・ピクチャーズが世界公開を行うと発表されている。フレモー氏は、「2023年は、スコセッシ監督とAppleと一緒にやってみようというサインだと感じました。カンヌをプレミアの場所に選んでいただき、大変喜ばしく思います」と続けた。
また、オープニング作品に出演するジョニー・デップについて、元妻アンバー・ハードとの裁判を問題視する声が一部から上がっていた。フレモー氏は、その状況についてもきっぱり否定した。「ジョニーは15代目のフランス国王を演じていて、とてもいい味を出しています。劇中では、とても流暢なフランス語のアクセントで話しています。ジョニーの裁判にまったく興味を示さなかった人間が世界にたった一人だけいるとすれば、それは私であるとお伝えしておきます。興味がないので、そのことについてなにも述べることができません」。
カンヌ映画祭のメイン部門であるコンペティション部門で最高賞パルムドールを競うのは、ウェス・アンダーソン、ケン・ローチ、ナンニ・モレッティ、アキ・カウリスマキ、トラン・アン・ユンら、カンヌおなじみの監督による21本。そして日本関連作品としては昨年の『ベイビー・ブローカー』(22)に続き2年連続コンペ部門出品となった是枝裕和監督の『怪物』(6月2日公開)、ドイツのヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演で東京のパブリックトイレを題材とした『Perfect Days』が選出されている。コンペ部門の審査委員長には、昨年『逆転のトライアングル』(22)で2度目のパルムドールを受賞したリューベン・オストルンドが就任。開幕上映の前に行われた開会式では、大きな身振り手振りでサービスたっぷりのスピーチを行なっていた。そのほか、ポール・ダノ、ブリー・ラーソン、ジュリア・デュクルノーら9名がパルムドールなど各賞の審査を行う。ある視点部門の審査委員長はジョン・C・ライリー。昨年上映した『ソウルに帰る』(8月公開)のダヴィ・シュー監督も審査員に名前を連ねる。各賞発表と授賞式は5月27日に行われる。
コンペ部門以外では、カンヌ・プレミア部門で北野武監督の『首』、ACID部門で二宮隆太郎監督、光石研主演の『逃げきれた夢』が上映される。近年珍しく日本映画が多く揃うカンヌ映画祭となる。北野監督の選出には、フレモー氏も「北野武の国際映画祭への復活はすばらしいニュースです。その場にカンヌを選んでくれてうれしい」と、満足気だった。
特別上映にはジェームズ・マンゴールド監督、ハリソン・フォード主演の『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(6月30日公開)、ピクサー・アニメーションの『マイ・エレメント』(8月4日公開)、監督週間ではミシェル・ゴンドリー監督の新作や、昨年亡くなったジャン=リュック・ゴダールの遺作上映、名誉パルムドールを受賞したマイケル・ダグラスや、カンヌとゆかりの深いクエンティン・タランティーノ監督のマスタークラスなどが行われる。5月27日の各賞授賞式まで、カンヌの街は朝から晩までお祭り騒ぎになる。ここから、2023年、24年に世界を賑わせる作品が登場するかもしれない。
文/平井伊都子