『怪物』是枝裕和監督が「脚本家と組んで映画を作るなら?」の問いに必ず「坂元裕二」と答えてきた理由とは?
『万引き家族』(18)の是枝裕和監督が、人気脚本家の坂元裕二によるオリジナル脚本を映画化した『怪物』(6月2日公開)。現在開催中の第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出され、9分半のスタンディングオベーションを浴びた本作。是枝監督にとって敬愛する脚本家である坂元との念願の初タッグ作となったが、是枝監督、どんなふうに坂元脚本に魅力を感じてきたのだろうか?
舞台は大きな湖のある郊外の町。ある日、学校で子ども同士によるケンカが起こる。よくあると思われた出来事は、子どもの母親、否定する教師らの食い違う主張で次第に社会、メディアをも巻き込んでいく事態に。そんななか、嵐の朝に子どもたちが忽然と姿を消してしまう。
安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子ら実力派俳優と、子役の黒川想矢、柊木陽太のほか、高畑充希、角田晃広、中村獅童など多彩な豪華キャストが集結した本作。音楽は『ラストエンペラー』(87)で日本人初のアカデミー賞作曲賞を受賞し、『レヴェナント:蘇えりし者』(15)などを手掛けた故・坂本龍一が手掛けた。
『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルム・ドールに輝き、日本を代表する映画監督として世界から熱い視線を浴びる是枝監督は、最新作が発表されるたびに期待の目を向けられてきた。今作はドラマ「anone」「カルテット」「大豆田とわ子と三人の元夫」や映画『花束みたいな恋をした』(21)など、名ストーリーを世に送りだしてきた脚本家である坂元との初タッグ作ということで、より一層大きな注目を集めている。なお、是枝監督が自身のものでない脚本で映画を撮るのは、『幻の光』(95)以来となった。
SNS上のやりとりをきっかけに知り合って、2015年に初めての対談を行い、その後も何度か顔を合わせる機会があったという2人。是枝監督は「脚本家と組んで映画を作るなら誰か?」という問いに、必ず「坂元裕二」と答えてきたそうだ。その理由については「坂元さんは『東京ラブストーリー』で脚光を浴びて以来、ずっとドラマのど真ん中を歩いてきた人です。ところが『わたしたちの教科書』を観た時驚いたんですよね。それだけ長く第一線で活躍しながら、こんなにもタッチを変えることができるんだって。自分を更新して、なにかを変えていこうとする姿にリスペクトを抱きました」と敬意を表す。
「決定的だったのは『それでも、生きてゆく。』です。加害者遺族という難しいテーマを、どうすればこんな精度で連ドラに落とし込めるのか。すごいなと思いました。それからはもう坂元さんの追っかけです(笑)」とファンとなったきっかけも明かす。さらに「坂元さんの書く人間には、僕の書けない人間が何人もいるんですよね。だから話をいただいた時、すごくうれしかったです」と念願の夢が叶い、喜びをあらわにした是枝監督。
坂元のエッセンスが詰まった登場人物とストーリーが展開する『怪物』の脚本を、どのようにフィルムに焼き付けたのか、期待せずにはいられない。是枝監督のみならず、映画ファンも歓喜したであろう夢のタッグ作『怪物』はまもなく封切られる。なお、坂元が紡いだ本作の“決定稿”(脚本家が最終的にまとめた脚本)を完全収録した、『怪物』シナリオブックも公開日より発売。一部の上映劇場でも購入できるので、ぜひチェックしてみてほしい。
文/山崎伸子