いい人でいればどうにかなる!エミー賞の歴史を塗り替えた名作ドラマ「テッド・ラッソ」が教えてくれるナイスな心意気
先日、シーズン3の最終回が配信されたApple TV+「テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく」。当初から3シーズン構想で作られていると言われていた本作は、「シーズン4に突入するとしても別の物語になる」とクリエイターが公言しているように、物語に一つの終止符が打たれた。
エミー賞では史上最多のノミネートを獲得した初のコメディシリーズとなり、2年連続で作品賞(コメディシリーズ部門)を受賞するなど、歴史に名を残すコメディドラマとなった「テッド・ラッソ」。まだ見ていない人のために、改めてその魅力を紹介していく。
アメフトコーチがイギリスのプレミアリーグの監督に!?
ジェイソン・サダイキスが主演・脚本・企画・製作という4足のわらじを履き、英プレミア・リーグに所属するサッカークラブの監督に就任した男の活躍や苦悩を描く本作。タイトルの「テッド・ラッソ」は主人公の名前で、選手やオーナーといったクラブ関係者とテッドとの人間関係が紡がれていくスポーツを題材にした人間ドラマだ。
降格の危機にあるサッカー英・プレミアリーグのAFCリッチモンドは、新たな監督としてアメリカからテッド・ラッソ(ジェイソン・サダイキス)を招く。しかしテッドはアメリカンフットボールの監督で、サッカーに関してはルールをまったく理解していないずぶのド素人。
実はこのはちゃめちゃな監督人事は新オーナーのレベッカ(ハンナ・ワディンガム)による企み。元旦那で前オーナーのルパート(アンソニー・スチュワート・ヘッド)が愛したクラブを破滅させたい一心で、アメフト監督を抜擢したのだ。そんなこととは露知らず、サポーターや記者、選手たちから厳しい言葉を浴びせられるテッド。しかし持ち前のポジティブな性格と独自の監督論によるテッド流指導は周囲の人々を引きつけ、チームに改革をもたらしていく。
サッカーを題材としているが、物語の舞台はピッチでなくロッカールームや、コーチやオーナーのオフィス、さらには打ち上げで足を運ぶカラオケバー…と、あくまでメインは人間ドラマ。破天荒なコーチがなにかと問題を抱えたチームを再建するというベタだが感動的なストーリーが、くだらない笑いと共に展開される、その塩梅がなんとも絶妙。押し付けがましくなく、まさにハートウォーミングな1作となっている。
ナイスでいることの大切さを体現するテッドら魅力的すぎるキャラクター
このドラマ最大の魅力が主人公テッドのキャラクター像だ。「サタデー・ナイト・ライブ」で知られるコメディアンのサダイキスが嬉々として演じるこの男は、暇さえあればジョークを連発する、ややウザくも底抜けに明るい、楽観的な人物。
とにかくしゃべりが上手いが、かといって人を茶化すようなジョークは決して口にしないナイスガイ。“信じる”ことを信条に、どんな選手、スタッフにもフラットに接し、選手がミスしても決して責めずにポジティブな言葉を贈り、信頼関係を築き上げていく。天性の人たらしともいうべきいい人ぶりには思わず見ていて笑顔になってしまうはずだ。
このテッドに加え、脇を固めるキャラクターも魅力的。第73回エミー賞で「テッド・ラッソ」から7名もの役者が演技賞にノミネートされた(うち3名が受賞)ことも、そのことを証明しているだろう。
第73回、74回エミー賞で助演女優賞を受賞したハンナ・ワディンガム扮するオーナーのレベッカは、夫への復讐からチームを2部に降格させようとする悪役かと思いきや、テッドのお手製ビスケットと人柄に速攻で心掴まれてしまうおちゃめな女性。男ばかりのサッカーオーナーの世界で気高く振る舞う一方で、カラオケで自分の思いの丈を熱唱するなどノリもよく、時には弱さも見せる等身大なキャラクターだ。
同じく2年連続で助演男優賞を受賞したブレット・ゴールドスタイン演じるロイ・ケントは、チームのキャプテンで伝説的なベテラン選手。しかし体の衰えからチームのお荷物になりつつあり、周囲を怒鳴り散らしつつも、なによりも不甲斐ない自分自身に怒りを感じている。しかし、弱さを見せまいと仏頂面で武装する厄介だが人間臭い堅物。
また、ハイテンションな金髪ギャルモデルのキーリー(ジュノー・テンプル)は、周囲から“選手の彼女”としか見られていないが実は超優秀。あれよあれよとチームのPR担当になり、そして会社を興していく、ドラマでも屈指の自立した人物像が見ていて気持ちいい。
さらに自己卑下が過剰な用具係のネイト(ニック・モハメド)。テッドの相棒でエキセントリックなコーチ、ビアード(ブレンダン・ハント)、自惚れ屋のエースだがどこか憎めないジェイミー(フィル・ダンスター)…などユニークなキャラクターがズラリ。
ジョークばかりのアメリカ人テッドに、皮肉屋なイギリス人のレベッカなど、パッと見はステレオタイプなところもあるキャラクターたちだが、彼らの表面だけでなく複雑な胸中も丁寧に描かれていく。リアリティのある人物像に思わず共感し、その親しみやすさに気づけば好きになってしまう…そんな人物に昇華されているのだ。