イ・ジョンジェの隠れた作品も!“韓流”20周年のメモリアルイヤーを記念した「韓流映画祭2023」が開催中
ペ・ヨンジュン主演「冬のソナタ」が日本で初めて放送され、韓国カルチャーブームとしての“韓流”が社会現象化したのは2003年のこと。あれから20年が経ち、Netflixシリーズ「愛の不時着」「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」といったドラマやK-POPの躍進によって、“韓流”は世界のメインストリームとなった。日本での第4次韓流ブーム真っ只中な今年、「韓流映画祭2023」が5月12日よりシネマート新宿と心斎橋で開催中だ。新作はもちろん、韓流黎明期の傑作など様々な年代やジャンルが網羅され、バラエティ豊かな作品が一堂に介している。今回は、第1弾として上映されている全8作品を紹介しよう。
困難に立ち向かう家族のドラマ、現実社会のリアルな描写…これぞ韓国映画のエッセンス!
格安物件を手に入れた親友同士の男女が怪奇現象に襲われる『ショー・ミー・ザ・ゴースト』(21)は、アイドルグループ、KARAのハン・スンヨンが主演を務めたホラーコメディ。物価高や階級社会のゆがみに加え、休職中で人生崖っぷちな2人が「お化けはともかく、マイホームを守りたい!」と幽霊退治に繰り出すあたりに、近年の快作『奈落のマイホーム』(21)にも描かれていたソウルの厳しい住宅事情が反映されている。韓国映画らしい社会派コメディの系譜に連なる一本だ。
また韓国映画と言えば、家族に降りかかる嵐のようなハプニングを一致団結して解決するウェルメイドでパワフルなホームドラマが大得意。シリーズ累計1800万人超えとなる国民的ヒット映画「家門シリーズ」の第3弾『家門の復活』(06)は、そんな強みが存分に発揮された王道の一本と言ってもよいだろう。全羅道を牛耳る犯罪組織ホワイトタイガー家の跡取り息子と、ヤクザ取り締まり専門の女性検事が結婚したことから始まるスラップスティック・ラブコメディだ。波乱だらけの恋愛、極道の全面対決、そして家族愛を丸ごと詰め込みつつ映画として完成させてしまうダイナミズムを楽しみたい。
社会の片隅であえぐように生きる人々に肉薄するのも、韓国映画の特徴だ。20歳を目前にした3人の若者が、酒やドラッグ、望まぬ妊娠といった凄絶な試練に直面するさまを活写した『バイ・ジュン さらば愛しき人』(98)は、当時の新鋭としてチャレンジングな作品を世に放ち続けていたチェ・ホ監督のデビュー作。『オールド・ボーイ』(03)のユ・ジテ、『女教師~シークレット・レッスン~』(16)のキム・ハヌルもともに初めての映画出演と、ファーストワークだからこその鮮烈さを持つ貴重な作品となっている。
イ・ジョンジェ、ソル・ギョング、キム・ヘス…韓国映画界を代表するスターの初期作品が集結!
世界的ブームのきっかけとなった「イカゲーム」で、自身もワールドワイドな知名度を得たイ・ジョンジェ。「ザ・アコライト(原題)」の出演、そして初監督作品『ハント』(9月29日公開)の日本公開も待ち遠しい彼の新人時代の作品も2本ラインナップされている。『オーバー・ザ・レインボー』(02)では、交通事故で恋人の記憶を失った気象予報士ジンスに扮し、恋心に揺れる男性の姿を繊細に演じている。
一方、朝鮮戦争で北側の捕虜となった韓国軍陸軍少尉の精神的死闘を描く『アルバトロス』(96)では、打って変わって北朝鮮の特殊工作員ピョンサンを熱演。失恋の果てに北朝鮮に渡り、かつての恋敵だった主人公をなぶる冷酷無比な軍人の横顔に凄みがある。近年特に評価が高かった『暗殺』(15)や『ただ悪より救いたまえ』(20)で見せたヴィランの片鱗がすでに芽生えているような映画だ。
韓国映画界に無くてはならない名優の一人、ソル・ギョングの隠れた逸品もラインナップされている。ファンタジー・スペクタクル時代劇『燃ゆる月』(00)は、歴代観客動員数第4位となったヒット映画だ。対立する二つの部族の間に生まれ宿命を背負う少女をめぐる愛と絆を描く本作で、ソル・ギョングは部族の長の役として勇猛な殺陣にも挑んでいる。国民的女優だった故チェ・ジンシルの在りし日の姿もまぶしく、長年の韓国映画マニアも必見だ。
映画『ひかり探して』(20)やドラマ「シュルプ」など、フィールドを問わず魅力を振りまくキム・ヘス。安定感抜群の演技力もさることながら、MCで見せる知的な発言も相まって韓国映画界でも特に信頼できる俳優だ。そんな彼女のみずみずしさとコメディエンヌの才能がほとばしるキャリア初期作品も鑑賞できる。『ミスター・コンドーム』(97)は、結婚3年目で共働きの夫婦が、子作りをめぐり論争を繰り広げるホームコメディ。女性がライフイベントを自分自身で決める姿や、家父長制とDINKs(子供を意識的に作らない共働き夫婦)の価値観が対立するストーリーは、当時の社会を反映していて興味深い。「ミセン~未生~」、『名もなき野良犬の輪舞』(17)でもお馴染みな重鎮のバイプレーヤー、イ・ギョンヨンと現代を象徴するカップルを演じており、演技巧者たちのアンサンブルが楽しめる1本だ。
“韓流”が席巻するより以前にも、新時代の韓国映画が日本の映画ファンを唸らせた時期がある。80年〜90年代にかけて隆盛した“コリアン・ニュー・ウェーブ”だ。社会の現実をエネルギッシュに捉えた作品で新しい韓国の姿を映し出そうとした新人監督の一人、ペ・チャンホ監督の『ファン・ジニ』(86)もリストアップされている。16 世紀前半の朝鮮時代に実在した伝説的妓生のファン・ジニを、壮絶な人生を歩みながらも凜として生きる一人の女性として気高く描き、主役に扮したチャン・ミヒのベストアクトとの呼び声も高い傑作だ。もう一つの見どころは、身分違いのファン・ジニに恋い焦がれる靴職人を力演した“国民の俳優”アン・ソンギ。少ない出番ながら、劣情を抱えた男の苦悶を眼差しひとつで表現したシーンは圧巻の一言に尽きる。陰影の深い映像も、ファン・ジニの悲壮美を見事に際立たせている。
これらの作品は、エスピーオーのオリジナル配信サービス「おうちでCinem@rt」でも同時配信される。自宅に居ながらにして好きな時間に韓国映画のフェスティバルを楽しめるのが嬉しい。さらに、韓流映画祭は第三弾まで続き、7月には第二弾がスタートする。韓国映画ファンのみならず、世界的映画作家となったホン・サンス監督の記念すべきデビュー作『豚が井戸に落ちた日』(96)をはじめ、こちらも観客を飽きさせないタイトルが期待できそうだ。
韓国映画ファンが情熱的に支え続けた韓流の20年をプレイバックする「韓流映画祭2023」。ベテラン韓国映画ファンにとっては懐かしく、ビギナーには新鮮な驚きをくれる作品の数々を、ぜひご堪能いただきたい。
文/荒井 南