ジェームズ・ワン&ジェイソン・ブラムが明かす『M3GAN/ミーガン』誕生秘話「ターミネーターになったアナベルが観たい!」
「殺人人形の映画が観たい。超常現象ではなくテクノロジーの暴走として、ターミネーターになったアナベルが観てみたい。そんな会話からこの映画が生まれました」。「死霊館」ユニバースで世界中を恐怖のどん底に陥れた鬼才ジェームズ・ワンは、ジェイソン・ブラム率いるブラムハウスと久々にタッグを組み製作を務めた『M3GAN/ミーガン』(公開中)が生まれた経緯について語り始める。
「おかしなことに、世間では僕が以前から殺人人形の映画を作ってきたと思われています。でも実は僕の映画では、人形自体は人を殺していない。人形はただの媒体に過ぎず、そこに超自然的な存在や邪悪な力が宿っているだけ。例えば『ソウ』シリーズではジグソウは人形を代理に立てて話をしています。一方ミーガンはペアになった人間を助けるAI人形ですが、相手への想いが強すぎて守るためならなんでもする。この物語をジェイソンに打診すると、彼はすぐに気に入ってくれました」。
「パラノーマル・アクティビティ」シリーズをはじめ、これまで次々と斬新なアプローチのホラー映画を世に送りだしてきたブラムハウス。意外にもブラムハウスとワンのコラボレーションは「インシディアス」シリーズ以来のことで、ブラムは「ジェームズのスリラー映画なら大歓迎だ。しかもそれが、人形のスリラー映画ならば尚更だ」とにこやかに再タッグをよろこんだ。
交通事故で両親を亡くし、悲しみからふさぎ込んでしまった9歳の少女ケイディ。彼女を引き取った叔母のジェマは、おもちゃメーカーの研究者であり、研究段階だったAI搭載の人形ミーガンをケイディに与えることに。あらゆる出来事からケイディを守るようにプログラムされたミーガンは、人間の女の子のような姿をしており、話しかけ、遊び相手になり、躾もしてくれる。ケイディが親しめば親しむほど、ミーガンのなかにケイディへの愛情が芽生え始め、それはやがて狂気となり、とてつもない惨劇を引き起こしていく。
「『アナベル』シリーズを手掛けた時にわかったことは、ホラー作品にとって女性ファンの存在が非常に重要だということでした」と、ワンは本作に女性の視点を取り入れる必要性があったことを振り返る。そこでワンは、自身が監督を務めた『マリグナント 狂暴な悪夢』(21)でもタッグを組むアケラ・クーパーに脚本を依頼。自身のビジョンを伝えながら、じっくりとこの物語を作り上げていったという。
「彼女には『ぶっ飛んだ内容にしてくれ』とお願いしましたが、同時に『人間性や家族との絆は丁寧に描いてほしい』と伝えました。恐ろしさだけでなく秀逸な人間性の描写がなければスリラー映画はうまくいかない。アケラはすごく頭が良い人で、物語を構成する能力に長けています。僕が作りたいと考える映画を完全に理解してくれて、ほかの人ならやり過ぎだとか馬鹿げていると判断しそうなことさえも恐れずに挑戦してくれました」。
そしてワンとブラムの2人は、ニュージーランド出身の気鋭監督ジェラルド・ジョンストンに本作のメガホンを託す。その理由についてブラムは「この映画には、難しく独特なトーンがある」と、ジョンストン監督が手掛けたホラーコメディ『Housebound』に感銘を受けたことを挙げる。「呪われた家にまつわる恐怖の物語と、ひねりの効いたユーモアのバランスが絶妙でした。本作も、コンセプト自体は恐ろしいけれどダークユーモアも隠されている。その点をうまく表現できる監督でないと、この作品は台無しになってしまうと考えたのです」。
さらにブラムは「彼はほかの監督なら絶対にやらないことをやってのけた。それは、ほかのことには目もくれずミーガンだけにこだわるということです。ちょっと腹は立ったけれど、彼のやっていたことは正しかったです(笑)。たしかにこの映画は、ミーガンが完璧でなければ成立しない。そのこだわりによって映画が成功したと思っているので、彼にはただただ感謝しかありません」とジョンストン監督を称える。
その言葉を受けてワンも「ジェラルドがミーガンを人間として扱いながら撮影してくれたおかげで、映画がよくなったと思います」と同意。「観客には驚きを感じてほしいですね」とワンが続けると、ブラムは「本当はミーガンが人間なのかもと思ってしまうけれど、そうではないんだと思える瞬間が突きつけられる。それが今作の特に楽しいところです」と含みを持たせた。
構成・文/久保田 和馬