あのシーンを手掛けたのは、14歳の少年!『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』驚きの秘話
6月16日に公開され、週末3日間の興行収入成績対比で前作『スパイダーマン:スパイダーバース』(18)の182%となる数字をマークし、大ヒット中の『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』。本作では前作同様に、様々なスパイダーマンがいるマルチバースが舞台となるが、その一つとなる次元を制作したのが、シリーズの大ファンである14歳の少年だったという驚きの報道が話題を呼んでいる。
※本記事は、シーンの詳細に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。
いつの時代も“親愛なる隣人”としてNYを守り続けてきたスパイダーマン。「大いなる力には、大いなる責任が伴う」という言葉どおり、彼らは常に、掴んできた勝利の代償として、愛する人を失ってきた。しかしいま、その運命に抗う一人のスパイダーマンが現れる。ピーター・パーカーの遺志を継いだマイルス・モラレスを主人公に、新たなスパイダーマンの誕生を描いた1作目『スパイダーマン:スパイダーバース』は、革新的映像表現が高く評価され、第91回アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞。その続編となったのが本作『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』だ。
「New York Times」誌によると、その少年、プレストン・ムタンガが手掛けたのはレゴのパート。彼はもともとレゴのキャラクターでアニメーション映像を作り、アップしていたYouTuberだったとか。本作の予告編を完全に再現した動画をアップしたところ、そのクオリティに感心したプロデューサー陣から、本作の映画制作に参加しないかと声をかけられたらしい。実際に、ムタンガが手掛けたYouTubeの動画を、プロデューサーの1人であるフィル・ロードがリプライしている。
同シーンが登場するのは序盤で、レゴブロックのビルやフィギュアのような次元を描いた、短いながらも印象的なシーンとなっている。フィル・ロードとクリス・ミラーのコンビは『LEGO(R) ムービー』(14)でも知られているが、同作のトリビュートであるこの愉快なシーンが、ベテランのアニメーションアーティストによるものではなく、ファンからクリエイターへと転身を遂げたトロントに住む14歳の少年のものだったとは!
カメルーン北西部出身の両親を持つミネソタ生まれのムタンガは、幼少期から天性のクリエイティビティを発揮していたとか。レゴブロックの説明書を読むことなく、自分自身のデザインで車を作りあげていたと、ビデオインタビューでも語っている。
そしてある日、父親の古いコンピューターを使って『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』の予告編を完全に再現し、まるでレゴの世界に属しているように作り上げた映像を完成させた。その時点で、彼は数年間にわたり、CGレゴの短編ビデオを作る技術を磨いていて、「父からBlenderという3Dソフトを見せてもらい、すぐに夢中になりました。YouTubeを見ながら大抵のことは独学で学びました」と語っている。
彼が自分の作ったバージョンの予告編をオンラインで公開するや、瞬く間に注目を集め、その評判は『LEGO(R) ムービー』の監督で「スパイダーバース」シリーズの脚本、プロデューサーであるフィル・ロードとクリストファー・ミラーの元へも届いた。また、もう1人のプロデューサーであるクリスティーナ・スタインバーグが、レゴのユニバースを映画に取り入れることを決めて、ムタンガにアニメーション制作を担当しないかと連絡をしたのだという。
「この予告を作ったのが14歳の少年だったと知り、“大人でもプロでもない人物が作ったものにしては驚くほど洗練されている”と思いました。世界最高レベルのアニメーターを含め、私たち全員が圧倒されたのです」と、ビデオコールで(クリストファー・)ミラーは語っている。
ムタンガの協力的な両親、セオドア・ムタンガとジゼル・ムタンガは、最初に製作陣から連絡を受けた際は半信半疑だったとか。少し前に息子のYouTubeチャンネルがハッキングされたため、ハリウッド・スタジオが息子の才能を求めていることについて慎重になるのは当然のことだった。しかし、トロント在住である本作のプロダクション・デザイナー、パトリック・オキーフをLinkedInで見つけ、ソニー・ピクチャーズ アニメーションからのオファーが正規のものであることを確認すると、医学物理学者である父セオドアは息子に新しいコンピューターを作り、最新鋭のグラフィックカードを買い、作品のレンダリングをより速く行えるように整えたそうだ。
公衆衛生インストラクターの母ジゼルも「プレストンには神から授けられた才能があります。彼にその才能があると分かった時点で、親としてできることは、それを育てて羽ばたかせてあげることでした」と語っている。
最初は春休みの間、それから学校のある日は夜に宿題を終えてから、ムタンガは数週間をかけてレゴのシーンに取り組んだ。隔週でビデオ会議を行い、ミラーは彼の進捗状況を確認し、細やかなフィードバックを与えた。一人で自由に創作することに慣れていた彼にとって、大規模なプロダクションの一部としてコラボレーションを行うことは、驚きの連続だったとか。
ムタンガの『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』への貢献は、映画製作の一般化の証 あると同時に、“決して早く簡単に作れるものではない”アニメーションに多大なる時間と労力を費やしたという彼の粘り強さの証でもあるとミラーは言う。
また(フィル・)ロードも 「『LEGO(R) ムービー』は、家でレゴブロックを使って映画を作る人々からインスピレーションを受けています」と語る。「それが、私たちが映画を作りたいと思った理由です。『スパイダーバース』のコンセプトは、誰でもヒーローになれるというものです。そして、この少年のような人々にインスパイアされた映画にインスパイアされたのが、このヒーローである少年なのです」。
まさに映画のコンセプトを体現したかのようなアメリカンドリームだ。『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』を観る時は、ぜひレゴのシーンにも注目していただきたい。
文/山崎伸子