親子の繊細な感情を描くドラマに心震わせるドキュメンタリー…第20回「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023」国際コンペ出品の10本をチェック
アゼルバイジャン発のエネルギッシュなヒューマンドラマ『バーヌ』
第二次ナゴルノ・カラバフ紛争末期の混乱中、社会的権力を持つ夫に息子を連れ去られたバーヌは、親権を求め闘い始める。皆が夫の報復を怖れ証言を拒むが、彼女を援護する証言を探す猶予は4日間しかなかった。
争乱の真っ只中、ひとり息子の親権を求め闘う母。この物語に、第二次ナゴルノ・カラバフ紛争で実際に多くの母が息子を亡くしているアゼルバイジャンの現状が重なることで、非常に強度のある作品に仕上がっている。本作は、ヴェネチア・ビエンナーレが毎年募集している、日本でも2015年に長谷井宏紀監督が『ブランカとギター弾き』(15)で参加した「ビエンナーレ・カレッジ・シネマ」の企画に採択され、昨年のヴェネチア国際映画祭でワールド・プレミアされた。
レトロな色彩で描かれる切ないラブロマンス『エフラートゥン』
父の仕事を継いだエフラートゥンは、子どものころに父が教えてくれた影や音を使った遊びの思い出を心の糧に、日々を過ごしている。彼女は、かつて黄色の傘を貸してくれた男性の声に恋をしていた。
盲目の時計修理の女性と、写真が趣味の男が恋に落ちる本作。ジュネイト・カラクシュ監督は短編映画『Suret』(13)が国内外の映画祭で高い評価を得て、トルコ政府の文化観光省からの助成金を獲得し本作で長編デビューを果たした。エフラートゥンを演じたドイツ生まれのイレム・ヘルヴァジュオウルは数々のテレビシリーズに出演、オフラズを演じたケレム・バーシンも日本でも公開された『レッド・ホークス』(18)に主演するなど、ともにトルコの人気俳優として活躍している。
本映画祭2018年の観客賞受賞作『家へ帰ろう』のパブロ・ソラルス監督最新作『僕が見た夢』
フェリペは母が嫌う演技のクラスに通っているが、その教師からフェリペの父は俳優だったと聞かされる。ある日、教師から映画のオーディションの話を受けると、街へ向かい、父の死以来、疎遠だった祖母に会いに行く。
エンディングに向かって怒涛の感動が押し寄せる本作は、すでに今年のベルリン国際映画祭ジェネレーション部門でインターナショナル・プレミアされ、スペイン語映画を集めたマラガ映画祭では批評家審査員特別賞を受賞している。ソラルス監督は、本映画祭には2018年に前作『家へ帰ろう』(映画祭上映タイトル『ザ・ラスト・スーツ』)で参加し、外国映画の監督としては本映画祭での20回の歴史で初めて、2度目のノミネートを果たした。
気候変動の問題に挑む科学者を追ったドキュメンタリー『イントゥ・ジ・アイス』
ラース・オステンフェルト監督は、3人の科学者によるグリーンランドの氷河の実態調査に同行する。彼らは氷の決壊や猛吹雪といった死と隣り合わせの状況のなか、地球温暖化の問題を読み解くためのデータを集めていく。
地球温暖化への警鐘を鳴らす気候ドキュメンタリーだが、それ以上に2人の氷河学者アラン・ハバード、ジェイソン・ボックス、そして古気候学の教授ドーテ・ダール・イェンセンという、3人の英雄についてのドキュメンタリーでもある。また、ボックスの調査に雪氷学のスペシャリストとして日本人の庭野匡思が同行しており、彼がテント内でインスタントラーメンを調理し、「日本人にとって、おいしいラーメンを作ることはとても大切なこと」と語るシーンがなんとも微笑ましい。
心震わす感動のセルフ・ドキュメンタリー『あなたを探し求めて』
極めて稀な障がいを持つ映画監督のエラ・グレンディニングは、障がい者差別がはびこるこの社会で、自分自身をさらに愛するには、なにが必要かを知るため、SNSを通じて世界中から自分と同じ障がいがある人を探し始める。
今年のサンダンス映画祭ワールドシネマ・ドキュメンタリー・コンペティション部門にノミネートされた本作。障害、出産、医療、友情、紀行といったドキュメンタリーの題材となる様々な要素が87分に凝縮され、まさに人間ドキュメンタリーと呼ぶにふさわしい感動叙事詩に仕上がった。グレンディニング監督は、映像制作に加え、俳優としても活躍し、2020年には期待の監督としてスクリーン・インターナショナル誌の「Stars of Tomorrow 2020」にも選ばれた
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■SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023
日程:【スクリーン上映】7月15日(土)~7月23日(日)、【オンライン配信】7月22日(土)~7月26日(水)
会場:SKIPシティ 彩の国 ビジュアルプラザ 映像ホールほか
内容:国際コンペティション、国内コンペティション(長編部門、短編部門) ほか
URL:https://www.skipcity-dcf.jp/