『マイ・エレメント』オリジナルキャストが語る、キャラクターに内包された奥深いテーマ「この贈り物を後世にも渡していかなくては」

インタビュー

『マイ・エレメント』オリジナルキャストが語る、キャラクターに内包された奥深いテーマ「この贈り物を後世にも渡していかなくては」

ディズニー&ピクサーの最新作『マイ・エレメント』が公開中だ。わたしたちが住む世界の“異世界”を、火、水、風、土の異なる元素(=エレメント)たちが暮らすエレメンタル・シティに置き換え、異種共存社会を描いている。「トイ・ストーリー」シリーズではおもちゃの世界、「カーズ」シリーズでは車両の世界、そして『ズートピア』(16)では動物たちの世界を描いた“擬人化”のエキスパートだけあり、異世界から現代社会への気づきを与えてくれるピクサーらしい作品となっている。

そういった設定やテーマはもとより、水彩画のような美しいアニメーションとキャラクターたちのいきいきとした動きと感情表現は、映画館で映像を体感する眼福に満ちている。それは、オリジナルの声優を務めた俳優たちにとっても同様で、キャラクターに自身の声を重ねていく作業は特別な体験だったようだ。火のアンバーを演じたリア・ルイス、水のウェイドの声を演じたママドゥ・アティエのインタビューから、『マイ・エレメント』が伝えようとするテーマを探ってみよう。

【写真を見る】火の少女エンバーを演じたリア・ルイスは、まるで炎のような美しいドレスでUSプレミアに登場!
【写真を見る】火の少女エンバーを演じたリア・ルイスは、まるで炎のような美しいドレスでUSプレミアに登場![c]2023 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

「時には電気にビリビリと感電するような“なにか”も必要」(ピーター・ソーン監督)

ファイアータウンに住むエンバーは、両親がファイアーランドからエレメント・シティに移り住んできた移民二世。監督と脚本を務めたピーター・ソーン監督の実体験に基づき、ピクサー社内の100名以上の移民一世、二世から体験談を募り、入念なリサーチを行い物語を作っていったという。長い年月をかけて作り上げたキャラクターたちに命を吹き込む“声”を与えるキャスティングには、声から共感やつながりを感じられることを重視するが、「時には電気にビリビリと感電するような“なにか”も必要だったりします。僕らが想像している以上にキャラクターを遠くまで連れて行ってくれるような」と、ソーン監督は考えている。賢くウィットに富み、時には熱血漢ぶりが暴走してしまうエンバー役を演じたのは、中国系アメリカ人のリア・ルイス。2020年にNetflixで配信されたアリス・ウー監督作『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』で、ラブレター代筆を頼まれる成績優秀な高校生エリー役を演じていた。ルイスは、「エンバーは、過去の私を少し反映しているかもしれない」と認め、こう続ける。

大好きな父の雑貨店を継ぐことを目標にしてきた火の少女エンバーは、自身の感情をコントロールできずにいた
大好きな父の雑貨店を継ぐことを目標にしてきた火の少女エンバーは、自身の感情をコントロールできずにいた[c]2023 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

「最近は抑え気味になったけれど、若いころはもう少しアグレッシブだったから(笑)。家族に守られて暮らしてきたエンバーは一つの世界しか知らず、外に足を一歩踏み出して異なるエレメントたちと関わりを持つことを恐れています。そして、彼女は家族や自分にとって一番大切なものにとても忠実で、そのためなら地の果てで戦うことも厭わない。エンバーは火という爆発しやすいものを持っていながらも美しく輝き、所作がとても優雅です。ゆらゆらと変幻自在で、異なるものも受け入れることができる。私の人生にも大爆発を伴うような強烈な情熱が芽生えた時期がありましたが、エンバーのようにいいエネルギーに変えることができました。それは、家族や友人など、ウェイドのような存在が私の人生にも現れて、内面に抱えた光を見せることができるよう手助けをしてくれたからです」。

「小さなエンバーを私の子どもの頃の記憶に重ねると、涙が止まらなくなりました」(リア・ルイス)

Netflix映画『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』での好演が評価されたリア・ルイス
Netflix映画『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』での好演が評価されたリア・ルイスNetflix映画 『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』独占配信中

中国、上海に生まれたルイスは、8か月の時にアメリカ人夫婦の養子となり、フロリダ州で育った。幼少から主にドラマ作品でキャリアを積み、中国系移民二世を演じた『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』で一気に注目を集める存在となった。ソーン監督も『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』を観てルイスを知り、「映画の中で彼女が、自分のアイデンティティや人間関係を理解するために、ある種の激しさを爆発させている演技に感銘を受けました。そして、激しさだけでなく、父親に対する優しさもあり、それがエンバー役につながりました」と語っている。

ルイスは、「ピーター(・ソーン監督)が描いたとても率直で繊細な物語に親近感を覚え、ピクサーを通じて表現することができたという事実に感動しました。私が実際に経験した感情や乗り越えたものが描かれていて、とても興味深かった。エンバーが怒りやフラストレーションを乗り越え、それを実際にクリエイティブなものに変えていくまでの道のりは、私たちすべてが若いころに葛藤するものです。でも、その負の感情を突き詰め、人生に寄せては去る波に触れるようになると、いい方向に導けるようになるものです。私は中国の上海からの養子として白人家庭で育ちました。両親は、私が6歳か7歳の幼い頃に演技や歌の道に進みたいと言った時、とても応援してくれました。私と妹のことを信じ進路を応援してくれた2人の努力の賜物が、いまの私です」と、映画とエンバーへの共感を示す。ソーン監督の演出も、ルイスや役者たちの生理に寄り添ったもので、エンバーが感傷的になるシーンでは、部屋の照明を少し落としたっぷりと役作りの時間を与えてくれたそうだ。


本作に自身の体験を反映しているというピーター・ソーン監督とプロデューサーのデニス・リーム
本作に自身の体験を反映しているというピーター・ソーン監督とプロデューサーのデニス・リーム[c]2023 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

「彼は、実際の経験をなにかに投影するのは、とても繊細なことだと理解していたんだと思います。エンバーのキャラクターに寄り添ってそのシーンを演じるために、私はリア・ルイスに戻り、両親が私のために払ってくれた犠牲について想いを馳せました。小さなエンバーを私の子どもの頃の記憶に重ねると、涙が止まらなくなりました。私が元来持つもの(エレメント)から脱し、爆発的な感情を持ちながらも傷つきやすいエンバーを演じることは、私の人生で経験したことのない大きな振れ幅でした」と、ルイスは声だけで演じる挑戦を思い返した。

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