『マイ・エレメント』オリジナルキャストが語る、キャラクターに内包された奥深いテーマ「この贈り物を後世にも渡していかなくては」
「ウェイドは、あらゆるものに対し心を開くことを“選択”しています」(ママドゥ・アティエ)
エレメント・シティの水道検査官として働く水のエレメントのウェイド。エンバーの店の水道管破裂に関する違反報告書を市役所に提出しなくてはいけないのだが、家族想いのエンバーの熱意にほだされ、2人はこの街を襲う洪水の原因究明に乗り出すことになる。異種のボーイ・ミーツ・ガール物語は、「ロミオとジュリエット」に代表される、どんなに愛しても相手に触れることができない『シザー・ハンズ』(90)、はたまた決して交わらない南北国境線に遮られた「愛の不時着」のようなラブストーリーの定番だ。
優しく裏表がなく、透明な体で感情ダダ漏れのウェイドを演じるのは、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(22)で「ジュラシック・パーク」を建造したインジェン社のライバル企業、バイオシン社の広報担当役を演じたママドゥ・アティエ。偶然にも、ソーン監督はリア・ルイスを発見したのと同じNetflixで、プレンティス・ペニー監督作『ワインは期待と現実の味』(20)を観てアティエの存在を知る。
「ただ、おもしろい映画を探していて観始めたんです。ママドゥはワインのセールスマンで、若い客にワインを勧めながら、恋の駆け引きをしたりする。その流れに身を任せるような流動的な動きに惹かれました。それからドラマシリーズの『Oh Jerome, No』で、ママドゥの泣き声に感情移入してしまいました。いままでたくさんの泣き声を聴いてきましたが、たいていは耳に突き刺さるような一音の、最初の4秒くらいで終わってしまうようなものです。でも、ママドゥはそのシーンで必要とされる様々な泣き方で観客を惹きつけていました」と、『マイ・エレメント』を感情的に引導する主役を見つけたと語っている。
「ウェイドは究極の楽観主義者であると共に、現実主義者です。困難な状況に陥った時、とても現実的な判断を下すでしょう?そしてあらゆるものに対し心を開くことを“選択”しています。選んでいると思うのは、彼が感情だけで動いているのではなく、常にポジティブな要素を探し、人のいい面を見ようとしているから。自分のためだけでなく、彼の周りの人たちすべてのためにポジティブでいようと心がけているのです」と、アティエはウェイドのキャラクターを分析する。
このような“できた男”を演じるにあたり、思い浮かべていた格言があるという。それは現代美術家のジェニー・ホルツァーがタイムズスクエアの映画館の看板に掲示した言葉で、「とても優しくある方法を見つけることが、あなた自身の利益となる」というもの。アティエが学んだ劇団の恩師がこの言葉をプログラムに掲載し、彼も携帯の待ち受け画面にしていたそうだ。「私が演じることになったこのキャラクターだけでなく、この映画全体に共通する引用のひとつだと思います。心を開くことを表していて、とても感動しました」とアティエが言うと、ソーン監督はこう続けた。「そして水には透明性があります。水は流れに身を任せることができる。最初は“火と水”という単純なアイデアでしたが、それを発展させていくうちに、声を演じる2人の個人的な部分がどんどん出てきたと思います。エンバーが移民二世の娘であることが、情熱や気性の面でどのように作用しているのか、彼女が背負う重荷はなにを意味するのか?といったような。ウェイドの見た目が透明だということは、感情を隠せないことを如実に表しています。ウェイドが抱える喪失感、彼にとっての特権とは、そしてウェイドのEQ(感情指数)の高さと世の中とのつながり方などが、映画を作る過程で変化していきました」。
「映画を観た方々が、自分でも気づいていない、自分に欠けている部分を持ち帰ってもらえたら」(リア・ルイス)
アティエはアフリカ西部のモーリタニア出身だが、生後6か月の時に家族でアメリカに政治亡命している。「父は外交官で学歴もありましたが、完全に再出発しなければなりませんでした。子どもの頃は父が家族のために犠牲を払ったと感じていましたが、大人になってみて、自分の人生を自らの手で築くことの意義を十分に理解できるようになりました。ピーターと私は、両親に対する感謝や恩義を分かちあっていたと思います。でも、みんなで『マイ・エレメント』を作り、亡命過程について両親と話をするなかで、“恩義”という感覚が変化していきました。なんと言うんだろう? “贈り物“のような…。むしろ、この贈り物を後世にも渡していかなきゃいけないと感じています。自分に与えられた人生を謳歌し、最善を尽くす。自分自身を信頼し、支える。これらのことを、ピーターと分かち合いました。ピーターとピクサーのみんなと共に、両親も映画を観ることができて本当にうれしかった。この映画は、私の出演作の中で両親が最も好きな映画になりました」。
アティエがこう言うと、エンバーを演じたルイスも今作に対する所感をこうまとめた。「映画を観た方々が、自分でも気づいていない、自分に欠けている部分を持ち帰ってもらえたらと思います。あまり語ろうとしていなかったものとか、もしかしたら言葉にするのを恐れている部分とか。人生において重荷を背負っているかどうかに関わらず、その部分を光り輝かせましょう。自分の人生に関わる人たち、家族や、パートナーや、親友たち、いまの自分があるのはすべてその人たちのおかげだという感謝の気持ちを持つことです。結局のところ、私たちの存在はいままで出会ってきた、そして私たちの人生に影響を与えてくれたすべての人々によって構成されているようなものだから。そして、『マイ・エレメント』の登場人物たちはみんな、お互いに関わり合った結果、好むと好まざるとにかかわらず、間違いなく変化を遂げています。この映画が明らかに証明していますよね」。
取材・文/平井伊都子