『春に散る』横浜流星×松浦慎一郎が対談。極限までリアルを追求した、ボクシングシーンの舞台裏を語る
「松浦さんに『アドリブでやりたい』と言ってもらえて、すごくうれしかった」(横浜)
――素人考えで恐縮ですが、作品を拝見してパンチを「止める」ではなく「振り切る」点が印象的でした。本当に当たっているようにしか見えない“魅せ方”の技術的な部分のこだわりを、ぜひ教えてほしいです。
松浦「もちろんカメラアングルが重要で、撮影部、照明部をはじめ各部署の皆さんのご協力あってこそですが、流星くん、窪田くん、坂東くんの努力の賜物だと思います。先ほどお話ししたようにギリギリを攻めるからこそ生まれたものですが、受けるほうだけでなく打つほうにも相当の覚悟と怖さが生まれます。でも怖さを持ったままでは動きに悪影響が出てしまう。みんなが恐怖心を外してくれたからこそ、そう見えたんじゃないかなと思います」
――なるほど。それが、松浦さんの「アドリブで行ける」決断にもつながっていったのですね。
松浦「とはいえ、前日ギリギリまで悩みました。元々、手(型)は決まっていましたから」
横浜「そうでしたね」
松浦「第11ラウンドの撮影当日に、ここで言わないと一生後悔すると思い、まず瀬々監督に『ワンカットだけ二人に任せてみてもいいですか』と相談しました。当然『大丈夫ですか?』と心配されましたが『二人なら絶対大丈夫です』と断言しました。
撮影の中で、流星くんと窪田くんの間にミックスアップ(相手との戦いの中で潜在能力を引き出されること)がおこり、お互いに集中力も動きも信頼関係も高まっていくのを感じていたので、このタイミングしかないと勇気を振り絞って伝えました。モニターで2人のアドリブを観ながら、いままでで一番震えたかもしれません。グワーッとこみ上げるものがありました」
――横浜さんはその提案を受けた際、スッと受け入れられたのでしょうか。
横浜「そうですね。そういう空気が自然とできていましたし、迷いや不安はありませんでした。なにより、松浦さんにそこまで言ってもらえたのがすごくうれしかったです。先ほどのお話の通り、自分は最初に『松浦さんがいままで作ったことのないボクシングシーンにしてください』と伝えましたが、とにかくいい作品にしたい一心でした。自分自身にもプレッシャーをかける言葉ですが、数々のボクシングを題材にした作品を指導している松浦さんが『いままでにない』と思えたなら、絶対に良い作品に違いないので」
――新たな可能性を横浜さんたちが切り開いたということでもありますもんね。
横浜「僕はこの世界(芸能界)に生きていなかったら格闘技の道に進んでいたでしょうし、格闘技へのリスペクトがあるからこそ、プロの格闘家の方が観て『これはないな』と思われないものを作りたいと思っていました。プロに『こいつら本当にやってるじゃん。俺らの試合っぽいな』と感じてもらえたら一番ですし、本気でやってることが伝わってほしいなと思いながら取り組んでいたので、松浦さんに『アドリブでやってみたい』と言われた時は達成感がありました。」
――お話を聞けば聞くほど、撮影現場を見てみたかった想いが強くなります。
松浦「独特の熱気がありました。途中から、カットがかかる度に観客席のエキストラの方々から拍手が起きたんです。そこは特に拍手をするようなシーンでもなかったので、びっくりしました。なかには感動している方もいたりして」
――まさに、試合を観ている感覚ですね。
松浦「本当にそう思います。流星くんと窪田くんの試合が“本物”だったという証拠ですよね」
――試合シーンでは横浜さんの目力に圧倒されましたが、例えば「まばたきをしない」等の指示があったのでしょうか。もしくはご自身で意識されていましたか?
横浜「いえ、完全に無意識でした。もちろん『演じている』という感覚は持っているのですが、『芝居している』と『試合している』が融合したような、不思議な時間でした。撮影終了後は撮り終えた達成感や喜びがある一方で、寂しさも同時に感じていて。松浦さんも編集に立ち会ってくださると聞いたので『僕らはやるべきことはやったので、あとは編集次第。瀬々監督や松浦さんが形にしてくれるはず』と安心して託せました」
松浦「撮了して、終わったー!と思っていたら『松浦さん、編集も立ち会ってください』と言われて、これはまだまだ終わらないぞ…と(笑)。でも自分も、立ち会ったほうがいいなと思っていたので、編集時は細かくチェックさせていただきました。
ボクシング未経験者の方から見たら『パンチを避けた』と思えても、経験者には『これは当たっていないけど当たったリアクションをしている』とわかる部分など、やっているからこそ気づけるところがたくさんあるんです。仮にぱっと見は気にならなくても、積み重なっていくと違和感になってしまうので『このカットは使わず、こっちでお願いします』など監督と意見交換しながら進めていきました」
――編集作業の立ち合いは、松浦さんのこれまでのお仕事の中でもレアなことだったのでしょうか。
松浦「そうですね。僕は基本的に“作品は監督のもの”だと思っているので、編集に関してあまり口は出しません。ただ今回は瀬々さんも『来てください』と言ってくださったので、ここまで関わることができました」