池松壮亮&高橋和也、お互いの存在から受けた刺激「高橋さんのお芝居がとても好き」「才能に脅威を感じた」

インタビュー

池松壮亮&高橋和也、お互いの存在から受けた刺激「高橋さんのお芝居がとても好き」「才能に脅威を感じた」

「池松くんの才能に、脅威を感じた」(高橋)

――そういったご苦労もありながら、やはり“南”と“博”を演じるうえでは、ご自身の身体にピアノを染み込ませる必要があると感じていらっしゃったのですね。

1人2役に挑んだ池松壮亮「自らピアノを弾くことなしに、この役を引き受けることはできなかった」
1人2役に挑んだ池松壮亮「自らピアノを弾くことなしに、この役を引き受けることはできなかった」撮影/興梠真帆

池松「そうですね。自らピアノを弾くことなしに、この役を引き受けることはできなかったと思います。映像でいくらでも誤魔化せるものですが、そのような態度でこの作品に臨むことは僕のなかでは当然ながらあり得ませんでした。とはいえ半年やそこらでその道のプロになれるわけでは決してないので、技術はもちろんですが、ピアノの前に座ること、鍵盤に触れること、音を聞くこと、そこにいる人の風情のようなものがほんの少しでも馴染んでくることを目指していました。冨永さんがこの作品をやる上で、自分がその主人公であるジャズピアニストを演じる上で当然のことだったと思います。ピアノを触っているすべての時間が、この役に近づくためのプロセスとなってくれました」

高橋「僕はいかにピアノを弾くことが大変かということもわかっているので、ピアノの前に座ろうなんてなかなか思えない。池松くんがピアノを弾いている姿を見ていると、一芸に秀でている人というのは、集中力と想像力でしっかりと弾きこなしてしまうんだと感じて。彼の才能に脅威を感じました。それくらい、すごかったです。また、“南”と“博”の演じ分けもすごかったですね。銀座に飛び込んできたばかりの若い“博”と、夢を見失いかけている“南”。その差を見事に演じていて驚きました」

――高橋さんの演じる三木は、お調子者でありつつ、その佇まいから哀愁と音楽への愛情がにじみでてくるようなキャラクターです。池松さんは、高橋さんのお芝居から刺激を受けたことはありますか?

高橋和也が演じたのは、お調子者だが音楽への想いは失っていないバンマス・三木
高橋和也が演じたのは、お調子者だが音楽への想いは失っていないバンマス・三木[c]2023 南博/小学館/「白鍵と黒鍵の間に」製作委員会

池松「いつも刺激だらけです。僕は個人的に高橋さんのお芝居が昔からとても好きで、共演としては『宮本から君へ』のドラマ版で、長くご一緒させていただいていました。そこで高橋さんが演じていたのが、(自分が演じる)宮本にとってお節介でいろいろダメな人なんだけど、憎めない、そして肝心なところで身をもって助けてくれる恩師のような存在でした。今作で久しぶりに再会できて、なんだか本作の三木さんも、“南”や“博”にとってダメな愛すべき恩師のような存在で(笑)。高橋さんの心底愛情深いその目と、心の奥深さを見つめていれば、今回も自ずと博と南と、三木さんとの関係が成立すると確信していました。三木役を高橋さんが演じられると聞いて、とてもうれしかったです」

――“南”や“博”と、三木さんのやり取りも大きな見どころになりますね。


高橋和也、池松壮亮の気合いに驚き!
高橋和也、池松壮亮の気合いに驚き!撮影/興梠真帆

池松「人生を映しているこの映画は、非常にメタ的な仕掛けが多く、三木さんは“南”や“博”のあるかもしれない“その後”を体現しているようなキャラクターだといえます。きっと三木さんも当時は博のように夢に憧れ、南のように現実にのまれながらも抜けだしたいと葛藤し、そして今の三木さんがあるのだと思います。だからこそ、あんないい加減な人だけど、懐がものすごく深い。この映画の持つユニークさや哀愁や小気味の良さを、高橋さんが三木さんとして作ってくれたと思います。ノンシャラントを地でいきすぎているようなキャラクターでした。僕の周りで本作を観てくれた人は、三木さんファンが多いんですよ」

高橋「そうなの?」

池松「三木さんは、心のなかで様々な葛藤を殺して生きてきた人でありながら、いつもヘラヘラしている人。そんな三木さんの奥行のある魅力を、高橋さんが見事に表現されていました。そういえば高橋さん、三木さんを演じるために歯を黄色くしていましたよね(笑)。数日間知らずに、高橋さんなんか歯、黄色いなあって思っていました」

高橋「そうなんだよね。衣装合わせでは、監督からいきなり『ヒゲがあったらおもしろいですよ!』と言われて。それが撮影の1週間前だからね(笑)。一生懸命伸ばしましたよ!伸びるのが速いほうで、よかったです」

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