『おまえの罪を自白しろ』中島健人×堤真一が対談。「黒子に徹することで、アイドルとしての自分を隠せました」
「実は、最初はオファーをお断りしたんです」(堤)
――中島さんは初のタイムリミットサスペンス映画だったと思いますが、苦労された点は?
中島「骨太な題材を扱いつつ、スリリングでテンポ感があるエッジの効いた作品にしたかったので、そこに目標を定めて、肩の力を抜いて楽しんでいました。これまでの作品では、監督から『いま(アイドルとしての)ケンティー出ちゃったね!』と言われることもあったんですが、今回は一度もなかったですね。それこそ議員秘書として大切なことって、黒子に徹することだと思うんです。今回はそれを意識したことで、アイドルとしての自分を隠すことができたかもしれません」
――やはり、前作『ラーゲリより愛を込めて』(22)での経験は大きかったと思いますか?
中島「そうですね。丸刈りにふんどし姿で、0℃の川に入って頑張った『ラーゲリ』での経験はかなり活きています。あの時は逆に、瀬々敬久監督から『いつもの(アイドルとしての)キラキラ感を出して、この映画の希望の光になってほしい』という演出があったんです。主演映画でシリアスな役どころを演じるのが目標の一つでしたから、『ラーゲリ』を経た今回で、ネクストフェーズへの第一歩を踏みだせたと思います」
――堤さんは大物政治家役ということで、出演オファーに戸惑われたそうですね?
堤「最初はお断りしたんですよ。政治家の裏の顔というか、泥臭い権力争いを描くとなると、自分が演じると、ちょっと軽く見えてしまう気がしたので。それに脚本はおもしろかったんですけど、僕が政治家という役を演じるにあたり共感できる部分が一つもなかったんです。そこで、『舞妓Haaaan!!!』でもご一緒した水田伸生監督から『この役には、堤さんのギラギラ感がほしいんです』と言われたこともあり、『それなら監督にお任せします』と引き受けさせてもらいました。そういう意味では、初めての挑戦でした」
――中島さんは晄司のキャラクターについて、水田監督と話されましたか?
中島「初めての顔合わせの時に、水田監督に『脚本を読んでも晄司の主人公像が見えないんです』と、ハッキリ言いました。それでどのようにして、主人公像を着色していくか?ということを話し合いました。最初にいただいた脚本では、父の清治郎とあまり対立していなかったり、晄司の感情の起伏もそこまで描かれていなかったんです。そこで、パンチを効かせた描写や、狡猾で強くまっすぐなところを晄司の特徴と捉えて、自分の役作りとして構成しました」
――そんなお2人が対峙されるシーンのエピソードを教えてください。
中島「宇田家の親子関係って、常に緊張状態が続いているというか、そこまで感情をぶつけ合う間柄ではないところが、この映画のポイントだと思うんです。ずっと冷戦状態というか、ともに本当の心根を出さない緊張感が続くなか、視線の使い方や時々出てしまう怒鳴り声が、どこか親子ゲンカっぽいんですよ。完成されたセレブリティ一家で、たまに垣間見える心の機微みたいなところに注目していただきたいです」
堤「僕は無口だった自分の父親を参考にして『自分が父をこう見ていたかもしれない』という思いで、清治郎を演じました。具体的な言葉はかけてこないんだけど、ある種の信頼と息子の未熟さを客観視して見ているので、どこか昭和な親子に近いんじゃないかな。大人の事情で余計なことは言えないから、どうしても言葉足らずになるし、息子からみれば、父親がなにを考えているかわからないだろうし。完全なコミュニケーション不足ですけど、清治郎からすれば、対立とは思ってないですよね」
――家族のために仕事を頑張っているのに、家族に迷惑がかかってしまう展開は、多くの人々が共感できる話でもあります。
中島「芸能活動をやっている人間としては、それは多少あるかもしれないですね。僕が芸能界に入りたてのころは、父の身の回りで『お前のとこの息子、売れてんの?』『まだまだなんじゃないの?』とか言われたくない、という想いが強くあって、自分ががんばらなきゃいけないなと思っていましたね。『親父が舐められないように』というか、父の尊厳やプライドを守ることが、この仕事をやっている意味の一つでもありました。実際、かなりそれを意識して笑顔を作っていたこともありますし(笑)」
――堤さんは今回、共感できなかった政治家役を演じられたことで、見えてきたものはありますか?
堤「親子愛だったり、孫への愛情みたいなものはわかりましたが、政治の世界を生きる人に関しては、いまもわからないままですね(笑)。ただ、共感できなくても演じられるものなんだっていうことに、改めて気づかされました。それは大きな発見だったかもしれません」
取材・文/くれい響