『つんドル』穐山茉由監督、アラサーアパレル社員が映画監督になるまでを語る「婚約破棄で初めて自由を感じました」|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
『つんドル』穐山茉由監督、アラサーアパレル社員が映画監督になるまでを語る「婚約破棄で初めて自由を感じました」

インタビュー

『つんドル』穐山茉由監督、アラサーアパレル社員が映画監督になるまでを語る「婚約破棄で初めて自由を感じました」

仕事なし、男なし、貯金なしの崖っぷちアラサーの安希子(深川麻衣)が、友人の勧めで56歳のサラリーマン“ササポン”(井浦新)と奇妙な同居生活を送る、まさかの実話を基にした大木亜希子原作の映画『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択した』(通称『つんドル』)が11月3日(金・祝)より公開となる。

本作のメガホンを取ったのは、かつて外資系アパレル会社の正社員としてフルタイムで働きながら、平日の夜間と土日に開講されている映画美学校に通っていた穐山茉由監督。安希子と同様、キャリアの岐路に立った時、穐山監督自身はどのような思いを抱いていたのか。“遅れてきた自分探し”に明け暮れたアラサーの日々を振り返りつつ、なぜいまでも二足のわらじを履いて映画を撮り続けるのか。MOVIE WALKER PRESSで短期集中連載がスタート!

自身のアラサー時代は、“遅れてきた自分探し”と突然の“婚約破棄”

【写真を見る】仕事なし、男なし、貯金なしの崖っぷちアラサーの安希子を演じるのは深川麻衣
【写真を見る】仕事なし、男なし、貯金なしの崖っぷちアラサーの安希子を演じるのは深川麻衣[c]2023 映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会

穐山茉由監督が映画美学校に通い始めたのは、ブランドのPRマネージャーとして、フルタイムの正社員でバリバリ働きながら、好奇心の赴くままに、バンドのボーカルや写真などの表現活動に打ち込んでいた、アラサー当時のこと。婚約者の転勤を機に寿退社するつもりだったにもかかわらず、自分から婚約破棄をしたそうだ。

「新卒でOEMメーカーに就職したのですが、激務について行けず…。半年で退職してアパレル会社のPRの仕事に就きました。その後、担当ブランドの独立に伴い、ジャパン法人化されて、途中で会社が外資系に変わったりして。入社後5年間くらいは無我夢中で仕事に取り組んでいたのですが、20代後半に差し掛かるとようやく仕事や環境にも慣れてきて。これから先の自分のキャリアや人生についても考えたりする余裕が出てくるじゃないですか。そんな中ふと立ち止まって周りを見渡してみると、結婚する人もいれば、仕事で評価され始めている人もいる。『自分はこれからどうしていきたいんだろう?』と考え始めたときに、クリエイティブなことに挑戦したくなって、バンドのボーカルをやってみたり写真の学校に通ってみたりと、まさに“ちょっと遅れてきた自分探し”みたいな感じで、手あたり次第いろいろやりだしたんです(笑)」

「今となっては『なぜそんなことで悩んでいたんだろう?』と自分でも驚くくらい、『こうでなければならない』という固定概念に囚われて、ガチガチになっていた気がします」と、アラサー当時の焦っていた心境を振り返る穐山監督。だが「婚約破棄」という大胆な行動に出たことで、凝り固まっていた思考から解き放たれ、初めて自由を感じたという。

「『なにかおかしいぞ』と多少の違和感を覚えても、それまでずっと自分の気持ちをごまかしながら生きてこられてしまったというか。逆に言えば、私の場合は婚約破棄までしないと、『自分で自分の人生を選ぶ』という、ごく当たり前の決断ができなかったんです。今思えば『自分の人生なのになんで遠慮していたんだろう?』って不思議なんですけどね」

井口奈己監督の『人セク』と出会い、30歳を過ぎて映画美学校へ

“ちょっと遅れてきた自分探し”みたいな感じで、アラサーになっていろんなことに挑戦し始めたという
“ちょっと遅れてきた自分探し”みたいな感じで、アラサーになっていろんなことに挑戦し始めたという撮影/杉映貴子


「もともと映画は好きで仕事帰りに一人でよく観ていた」とは言うものの、「自分でも映画を撮ってみようとは思ってもいなかった」という穐山監督。正社員として働きながら、映画美学校に通うことに決めたきっかけは、とある一本の映画と出会ったことだった。

井口奈己監督の『人のセックスを笑うな』を観て、なぜだかよくわからないんですが、『私がやりたいと思っていることを、すでにやっている人がいた!』と驚いたんです(笑)。そこで初めて『映画を撮る』ということに興味を持ち始めたのですが、最初は何から手を付ければいいのかも全くわからないような状態で、小規模なワークショップに参加してみたりするなかで、『あ、映画ってこうやって撮るんだ』とだんだん理解し始めて。それまでは、『映画は、アーティスティックな才能がある人が作れるもの』というイメージがあったのですが、実際にやってみると関わる人数も多くて、自分のやりたいことを相手に正確に伝えるために、コミュニケーションを取ることが欠かせない。『映画作りは、会社組織で大きなプロジェクトを遂行することに近いのかもしれない』と気付いたんです」

夜は親友と飲みながら、恋活に精を出す日々
夜は親友と飲みながら、恋活に精を出す日々[c]2023 映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会

穐山監督の勤務先はもともと女性社員が多く、社長も女性。産休や育休の取得も当たり前の環境で、社員一人ひとりが、仕事だけではなくプライベートも充実させることに理解があった。「仕事を辞めて映画に専念する道も考えてみた」ものの、「そこまでリスクを取らなくても、平日の夜間と土日に通える映画美学校ならなんとか両立できそうだったので、まずは自分ができる範囲で、働きながら映画製作の技術を学び始めることにしたんです」


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