『つんドル』穐山茉由監督、アラサーアパレル社員が映画監督になるまでを語る「婚約破棄で初めて自由を感じました」
初の長編作品『月極オトコトモダチ』が、自身のターニングポイントに
2年間のフィクションコースに通い、修了制作として撮った『ギャルソンヌ ―2つの性を持つ女―』が、若手監督の登竜門と名高い「田辺・弁慶映画祭」に入選。それを機に「MOOSIC LAB」への出品が決まり、『月極オトコトモダチ』の制作へと取り掛かる。
「『月極オトコトモダチ』は初めての長編作品で、正社員としてフルタイムで働きながら作っていたので、制作中はとにかく必死だった記憶がありますね。会社が終わってからファミレスで一晩中脚本を書いて、5日間の夏休みと前後の土日を使って、計9日間ですべて撮影したんです。映画が完成して、東京国際映画祭に正式出品されることになったのですが、それを知った会社の人たちからも『え!?そんなに本気でやってたの?』と、心底驚かれて(笑)。上映を機に周りも『すごいね!』ってお祝いムードになって、応援してくれて。私としてもより本格的に映画に取り組み始める、転換期になりました。ちょうどその頃から上司にも相談して、正社員から雇用形態を変更してもらったりして。現在は、週2日出社してPRの仕事をしながら、それ以外の時間帯で映画関連の仕事をしています」
「ただただ自分の世界を表現したい人にとっては映画制作というものは“苦行”が多い方法かもしれませんが、私は割とあらゆる困難も楽しんでしまえるタイプ」だと笑う穐山監督。
「私の場合、自分の力ではどうにもコントロールできないことや、想像すらしていなかった問題にぶち当たることが、むしろ逆に好きなんじゃないかとさえ思っています(笑)。映画作りにおいてはごくまれに、『自分が想像したよりはるかに良くなるケースもあるのだ』ということを経験しているので、それが楽しくて私は続けているのかもしれません」
「“一般的”からこぼれ落ちてしまうような関係性こそ、大事にしたい」
そんな穐山監督に「映画を撮る上で、もっとも大切にしていることは?」と尋ねると、「“一般的”とされるものからこぼれ落ちるものこそ、私は大事にしたい」との答えが。
「『つんドル』で描かれるササポンと安希子の二人の関係性も、傍から見ると『それってどうなの?』と捉えられてしまうような、自分でもなんと呼べばいいのかわからない、とても一言では言い表せない特殊なものではありますが、それこそが魅力的だなと感じたんです。出来ることならこれからも、そういう関係を映画にしたいという想いがありますね」
その一方で、「ある意味では、かつて苦しんでいた自分に捧げるために、あの頃の自分自身を裏切らないために、映画を撮っているとも言えるのかもしれない」とも語る穐山監督。
「『きっとこの世界のどこかにいるであろう、かつての自分と似たような悩みにいま苦しんでる人たちに届くといいな』という一心で、映画を作り続けているような気もするんです。何かに悩んでいる時って、本当にちょっとした、普段なら絶対見逃してしまいそうなほんの些細な一言で、人生がガラッと変わるくらい影響を受けたりもするじゃないですか。一人きりになれる“映画館”という場所で、目の前に流れる物語を受け止めて、観終わった後も自由に思いを巡らせることができる<映画>は、私の人生において貴重なもの。『つんドル』を通じて、ぜひ皆さんにもそんなひと時を味わってもらえたら嬉しいです」
取材・文/渡邊玲子