「BLAME!」「シドニア」秘話も!「大雪海のカイナ」監督&プロデューサーたちが企画発足からの約10年を振り返る
「毎月弐瓶さんの家に押しかけてイメージ絵をベースに一緒に物語を考えていきました」(守屋)
――瀬下監督も企画の初期段階に参加していたとのこと。どのような経緯でこのプロジェクトはスタートしたのでしょうか?
守屋「『シドニア』のテレビアニメ第1期の放送が終わった直後、2014年の夏くらいに弐瓶さんに『ファンタジー作品を作りませんか』とご提案したのがきっかけです。それから毎月弐瓶さんの家に押しかけて、描いてもらったイメージ絵をベースに一緒に物語を考えていきました」
瀬下「そのころに描いたラフスケッチとかメモとか、まだ残っています」
安藤「企画段階の話は見聞きしていて、うらやましいと思ってました」
瀬下「あの時点でベースになる雪海のアイデアはありましたよね」
守屋「ありました。タイトルも一緒に考えて。だって初期設定やあらすじに加えて最初の4話の展開まで細かく作ったんだから」
瀬下「2014~15年にかけて進めていたから、あれから9年ですね」
守屋「最終的に本作の主幹事になっていただいたフジテレビさんと出会うまで、制作費が集まらなくてストップしてて。その間に『BLAME!』や『シドニア』の映画を発表、制作しましたし、時間がかかってしまいました」
瀬下「だいぶ長くかかりましたよね。すっかり歳も取るはずだ(笑)」
守屋「タイトルの“雪海”を“大雪海”にしようと提案したのは僕のアイデア。『大雪海のリリハ』もいいかもって話していた記憶があります」
瀬下「リリハを主役にしたほうがいいってね。でも完成版を観て、カイナでよかったと思いました」
安藤「リリハだと普通になりすぎちゃうんじゃないかなって」
「プレスコで作ると登場人物の演出を監督がコントロールできます」(安藤)
――完成披露上映会の舞台挨拶では、カイナ役の細谷佳正さんとリリハ役の高橋李依さんがプレスコ収録(最初にセリフを収録し、その音声に合わせてアニメーションを制作していく方法)について振り返っていました。
安藤「プレスコで作ると登場人物の演出を監督がコントロールできます。テレビシリーズでは各話で演出担当が変わることが多いのですが、本作ではプレスコゆえに登場人物の感情の一貫性を保てたと思います」
守屋「テレビアニメ11話と劇場版までがセット。その物語の一貫性を出すと言う意味では非常に意味があると思います」
安藤「CG作品だとプレスコのほうが多いですが、僕の場合は現場都合ではなく演出都合でプレスコを選んでいます。キャラクターに生命を吹き込む作業として、キャストさんに初っ端でキャラの人格や同一性を作るのを担ってもらうためで、だからすごく敬意を持っています、ありがたいです」
瀬下「アニメーションが声優さんの演技からの逆算で決まっていくのはおもしろいですよね」
安藤「まさに、演出のコントロールとしてそれを狙っています」
「建設者を嫌いな人はこの地球上にいないと思っている勘違いが安藤さんらしさ(笑)」(瀬下)
――SF要素に弐瓶ワールド、ボーイミーツガール…と様々な視点で楽しめる作品ですね。
安藤「新しい世界をカイナ、リリハのような若い世代に任せるというメッセージが伝わるといいなと思っています。主人公と同世代の方に観ていただいて、様々なことを感じてもらいたいです」
守屋「間口を広げて幅広い層に観てもらえる作品づくりを意識したので、カイナとリリハ、2人の物語に共感してくれる方もいるでしょうし、弐瓶ワールドファンにも楽しんでもらえる要素はたくさん詰まっています。また、環境問題やSDGsの観点からも課題を投げかける作品になったとは思います」
安藤「『シドニア』にしても宇宙レベルのスケールの大きさから登場人物たちのミニマムな物語まで両極端の視点で楽しめる。そういった弐瓶作品へのリスペクトは『カイナ』にもきちんと盛り込みました」
瀬下「そこは踏襲されていますよね」
守屋「映画版『BLAME!』も小さい村の物語にしましたが、全体の世界はめちゃめちゃ大きいので」
瀬下「圧倒的なマクロとものすごく身近なミクロが同居する世界観がいい。弐瓶さんの作品のエッセンスが貫かれていて、弐瓶ワールド好きには堪らない作品ですよね」
安藤「弐瓶さんも一緒に作っているので、エッセンスはしっかりと(笑)」
瀬下「僕は弐瓶ワールド大前提で観ているので“東亜重工サーガ”(東亜重工=『BLAME!』『シドニアの騎士』など弐瓶勉作品に共通して登場する架空企業名で、弐瓶作品の代名詞)だなって。イベントで安藤監督が『ファンタジーを作っていたらゴリゴリのSFになりました』と言っていましたが、映画を観たらボーイミーツガールだなと思いました。『シドニア』もそうでしたね」
安藤「『シドニア』はすごくボーイミーツガールでしたね」
瀬下「『愛は身長と種を超える』でしたから(笑)。本当に魅力的な世界観だと改めて思います。『シドニア』も『カイナ』もハードSFだけど、ボーイミーツガールの一つの形としてオススメできます」
安藤「1970年代ぐらいから続くSF小説や、さかのぼる冒険小説の流れをそのまま汲んでいる、そんな想いで作っていました。正直に語れば往年の傑作アニメたちとの類似性は隠せないです。DNAに刻まれ拭いきれない。ならそれらの作品に影響を与えた物語までさかのぼってみようと。一応はSFや冒険小説にのめり込んだ世代なので…」
瀬下「随所に出るSF的こだわりはすごく共感できます。本作ではいろいろな場面で建設者が出てくるけれど、僕はずっと建設者だけを観ていたいくらいです(笑)」
守屋「ハハハ(笑)」
瀬下「SF的偏向発言だけど、建設者の細部にいたるデザインやアニメーションとしての動きを見ていると、『本当に大好きなんだな』というのが伝わってくるんですよ」
安藤「好きです。建設者大好きです(笑)」
瀬下「カットの量やギミックからSF好きのこだわりが見えました」
安藤「嫌いな人はいないと思いながら作っていました」
瀬下「そのある種の勘違いが安藤さんらしさですよ(笑)。建設者を嫌いな人はこの地球上にいないと思って描いているところ。安藤さんのこだわりがおもしろくてクスッと楽しめてしまうのは僕には堪らなかったです」
守屋「建設者が立ち上がるところとかね(笑)」
瀬下「そうそう(笑)。ボーイミーツガールがテーマになっている作品で僕がプロデューサーなら、視聴層の間口を広げるために、まず建設者のカットを減らします。かわいいリリハのカットや、エモいリリハを入れさせます(笑)。でも、守屋さんは優しいからOKしたんですよね」
――守屋さんも弐瓶作品の大ファンですからね。
守屋「おもしろいって思っちゃうから」
安藤「守屋さんにもっと弐瓶作品的SF的要素やランドスケープショットを増やすように言われたところは結構あります」
瀬下「守屋さんらしいなあ(笑)。ジャンルへの強い愛を感じますよ。こういう作品がアニメになるべきだという非常に強い愛です。それこそが『シドニア』から続く弐瓶ワールドのエッセンスの楽しさなんです」
守屋「弐瓶さんも昔おっしゃっていたけれど、SF好きのスタッフに出会ったことがミラクルだったかもしれないって。好きなもの同士が集まっちゃったから、こういう作品になってしまう(笑)」
【イベント概要】
入場者特典付! 《東亜重工サーガ》 『BLAME!』『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』特別音響上映&スペシャルトーク
・実施日:2023年10月29日(日)
・実施劇場:川崎チネチッタ
・実施時間:13:00開映
※『BLAME!』『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』上映に続いてトークイベントあり
・登壇者(予定)
安藤裕章(『大雪海のカイナ ほしのけんじゃ』監督)
瀬下寛之(『BLAME!』監督)
吉平”Tady“直弘(『シドニアの騎士 あいつむぐほし』監督)
守屋秀樹(各作品プロデューサー)
※登壇者は、予告なく変更となる場合がございます。
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