歌舞伎町と共に育った新宿ミラノ座と、そのDNAを継ぐ109シネマズプレミアム新宿。長年の想いが詰まった“唯一無二の映画館”が目指す地点は?
「音楽映画は、その違いが特にわかると思います」(久保)
――オープン後、実際に来場された方からはどのような反響が届いているのでしょうか?
廣野「やはりこれまでにないサービスを提供していく映画館ですので、オープン前には正直かなりドキドキしていました。ですが、来場してくださったお客様からは『こんな映画館見たことがない』という声や、『ここで観たらもうここでしか観られない』といった、たいへんうれしいお言葉ばかりをいただけて、信じてきたことが間違いじゃなかったんだなと噛み締めているところです」
――他の映画館と比較して、全体的な客層や作品の集客など違いはあるのでしょうか?
廣野「やはりある程度チケットの金額を高めに設定させていただいていますので、ご家族連れよりも30代以上の方が多い傾向にあります。それは予想していた通りではあるのですが、ゴールデンウィークの際には特別なイベントとして映画を楽しみに訪れた家族連れの方も多くみられました」
久保「作品によっての客層ですと、ご来場者様にお送りしているアンケートの回答を通して驚くような発見がありました」
廣野「そうなんです。鑑賞環境の優れた映画館であるということが多くのお客様に伝わっているからこそ、皆さんすでに何度も観ているような好きな映画を一番良い環境で観るために足を運んでくださるのです。例えば一昨年からのロングランを記録した『RRR』や、昨年2月に公開された『BLUE GIANT』のようにリピーターが続出している作品は、とくに大きな反響がありました」
久保「やはり音響にこだわりを持ったことが奏功したのだと感じています。『BLUE GIANT』のような音楽映画は、その違いが特にわかると思います。当館だけで上映していた、坂本龍一さんのソロコンサートを再編集した『Ryuichi Sakamoto: Playing the Piano 2022+』も多くの反響をいただきました。その冒頭で坂本さんは、なぜ当館の監修を務めたのかというお話をされているので、よりこの場所で観る意義があったはずです。また坂本さんの新たな長編映画が制作されているので、完成した際にはすごく良い環境でお届けできることを楽しみにしております」
「ミラノ座のDNAを受け継ぎたい」(久保)
――横田さんはミラノ座の元支配人として、この場所に映画館が新たに生まれたことにどのような感慨を抱いていますか?
横田浩司(以下、横田)「ミラノ座は、作品と映画館とがリンクする唯一無二の映画館でした。シネコンが主流になったいま、おそらく映画を観てもどこのスクリーンで観たか紐づいている方は決して多くないのではないかと思います。でもミラノ座の場合は、『あの映画をミラノ座で観た』ということが、いつ誰と観たかという思い出と共に残る映画館でした。だからこそ、この場所にできる新たな映画館も、“ここで観た”という体験がずっと残る映画館になってほしい。そう願っています」
久保「先ほども“象徴的な映画館”とお話ししましたが、やはりミラノ座に強い思い入れを持っている人はたくさんいらっしゃると思います。そのような方々に喜んでいただけるような仕掛けといいますか、例えば入口手前のレセプションにはミラノ座のスクリーンカーテンをイメージしたアートが飾られていたり、10階のプレミアムラウンジ『OVERTURE』には、『ミラノ座の記憶』と題したフィルムアートが飾られていたりします。
シアター8に35mm映写機を導入したのも、元々はミラノ座のDNAを受け継ぎたいという想いからスタートしたものでした。ですがデジタルとフィルムを併設するのはハードルが高く、悩んでいた時に坂本さんのフィルムに対する想いが背中を押してくださって導入を決断するに至りました。日本中の映画館を探し回って映写機を譲っていただき、そこにリールや整流機などミラノ座で使用していた部品を付けて稼働しているのです」
横田「東急歌舞伎町タワーの外観も、新宿TOKYU MILANOの建物の大きさと色を再現しているんですよね?」
廣野「そうなんです。アーチ状になっているピンク色の部分は、昔の新宿TOKYU MILANOの建物と同じ高さなんです」
久保「建物の外観全体は水をイメージしていて、それは元々ミラノ座の前にあった広場の噴水がモチーフの一つ になっています。ミラノ座の最終上映の時、横田さんが挨拶で『新宿ミラノ座は永久に不滅です』とおっしゃっていましたが、こういうかたちで受け継がれているのです」
廣野「最終上映はすごいイベントでしたよね」
横田「あの時はたしか2000人ぐらい来場していただいたと思います。通路にも人があふれていて」
久保「それだけ皆さんの思い出が詰まった場所ですので、唯一無二のシネコンを作らなければいけないと、絶対の自信をもって提供しています。他の映画館もいいけれど、その上をいくにはどうしたらいいのか。やはり坂本さんの力無くしては実現できなかったでしょう」